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脱原料炭リスト 日本企業のCO2排出増加への関与を示す


SteelWatch, Nippon Steel Kimitsu steelworks

(2025年1月23日、東京)原料炭を使用した鉄鋼業界への融資を続ける金融機関等に、ますます厳しい目が向けられている。新たに発表された調査によると、18か国で160社が252件の原料炭鉱拡張プロジェクトを進めている。これらのプロジェクトが全て実現すれば、年間5億5100万tの原料炭がさらに生産されることになる。これに伴い、年間9億7600万tのCO2が追加で排出され、原料炭生産量とCO2排出量がともに50%増加する見込みとなる[1]。


ドイツのNGOであるUrgewald(ウルゲバルト)と10団体が発表した初のMetallurgical Coal Exit List(MCEL:脱原料炭リスト)[2]によると、オーストラリアは世界最大の原料炭輸出国であり、日本はその主要な輸入国となっている[3]。日本製鉄、三菱商事、三井物産は、オーストラリアの原料炭鉱拡張プロジェクトに出資しており、これらの計画が実現すれば、年間5700万tの追加生産能力を得ることになるとされている[4]。日本製鉄はさらに、オーストラリアのバルガ炭鉱に戦略的な出資を行い、原料炭の安定供給を確保するとしている[5]。

Urgewaldのディレクター、ヘファ・シュッキング(Heffa Schuecking)氏は以下のように述べている。

「すでに何百もの金融機関が、Global Coal Exit List(GCEL:脱石炭リスト)を活用し、一般炭事業への資金提供を制限している。今回発表したMCELは、原料炭に特化した新たなデータベースで、新しい鉱山や拡張計画を進めている企業を明らかにしている。金融機関は目を覚まし、この業界の無謀な拡大に資金を提供するのをやめるべきだ。」


鉄鋼業界の71%は石炭を使用した高炉による生産に依存しており[6]、この分野は世界のCO2排出量の11%を占めている[7]。 パリ協定が締結されてから10年が経過した今も、汚染の増加は一向に減速していない。さらに、原料炭は一般炭の3倍もの汚染を引き起こす可能性がある。にもかかわらず、エネルギー分野の石炭(一般炭)と異なり、原料炭の生産者や利用者は、資金調達や保険において実質的な制限をほとんど受けていない[8]。さらに、原料炭を段階的に廃止し、鉄鋼生産を脱炭素化する技術や解決策はすでに導入可能である[9]。

スティールウォッチのアジア担当、ロジャー・スミス氏は以下のように述べている。

「日本製鉄やJFEスチールなどの鉄鋼会社が推進する拡張プロジェクトが成功すれば、今まさに排出削減が求められているこの時期に、毎年採掘され高炉で燃やされる原料炭の量がおよそ50%増加することになる。しかし、一筋の希望もある。7年前、一般炭に関するGCELが発表された際、数々の銀行が相次いで融資撤退に踏み切った。日本でその動きが広がるまでには少し時間がかかったが、最終的には多くの新しい方針が生まれた。原料炭でも同様の動きが起きると見ている。現在の兆候を見る限り、鉄鋼会社も最終的には、光の下に引き出され、方針を転換せざるを得なくなるだろう。」


三井物産は2018年に最後の一般炭鉱の持分を売却し、三菱商事も2019年に一般炭事業から撤退した[10]。しかし、金融機関による石炭への対応では、原料炭が依然として大きな盲点となっている。Reclaim Finance(リクレイム・ファイナンス)の報告によると、世界の386の金融機関のうち、これまでに183機関が一般炭への対応を示している[11]。それに対し、原料炭への対応を示しているのはわずか16機関のみである。原料炭が全石炭消費量の約14%を占めているにもかかわらずである[12]。

リクレイム・ファイナンスのシンシア・ロカモラ(Cynthia Rocamora)氏は以下のように述べている。

「原料炭が一般炭よりもリスクが低い、あるいはより望ましいとする科学的根拠や理由はない。気候変動の観点から見れば、石炭は石炭であり、その用途に関係なく廃止される必要がある。鉄鋼生産を脱炭素化する技術はすでに存在し、業界の先進企業によって導入されている。金融機関は、新たに汚染を引き起こす原料炭鉱の開発事業を支援するのではなく、石炭を使用しない鉄鋼生産への移行を支援するべきだ。」


MCELは、世界161社を対象としており、以下のリンクからダウンロード可能。
https://coalexit.org/mcel


注:
[1] 高炉による鉄鋼生産では、粗鋼1tあたり平均770kgの原料炭を使用し、2.3tのCO2が排出される。仮に、新たに採掘された原料炭すべてが高炉による鉄鋼生産で消費された場合、年間5億5100万tの原料炭生産量は、年間4億2400万tの粗鋼生産量と、年間7億8800万tのCO2排出につながる。さらに、原料炭の採掘によって発生するメタン排出は、鉄鋼業界の気候への影響を27%増加させる可能性がある。

[2] Metallurgical Coal Exit List(MCEL:脱原料炭リスト)は、原料炭開発事業者に関する世界で最も包括的な公開データベースである。このリストは、脱炭素化プロセスで見過ごされがちな分野に透明性をもたらすために作られた。Global Coal Exit List(GCEL:脱石炭リスト)の姉妹データベースとして、MCELは金融機関がこの高排出事業への関与状況を把握し、新たな脱原料炭の方針を策定するのに役立つ。また、データの持続的な価値を確保するために、MCELは毎年更新される予定である(https://coalexit.org/mcel)。MCELは、Urgewald、Reclaim Finance、Banktrack、スティールウォッチ(SteelWatch)、Global Energy Monitor(GEM)、Coal Action Network、Coal-free Finland、Nordic Center for Sustainable Finance、Ecodefense、Rainforest Action Network、Sunrise Projectの共同発表による。

[3] オーストラリアの日本への原料炭輸出:https://gmk.center/en/news/australia-lowers-forecast-for-coking-coal-exports-for-fy2024-2025/

[4] 日本企業による原料炭鉱山の拡張プロジェクト:

上記の生産能力はプロジェクト全体の規模を示したものであり、日本企業がこれらのプロジェクトで保有する持分比率は反映されていない。
日本製鉄は年間約2500万tの石炭を消費している(日本製鉄統合報告書, p.10, 93 参照。ただし、少数株主が所有する関連会社は含まれない)。また、年間6900万tの生産能力を持つ炭鉱に出資しており、さらに豪州ブラックウォーター炭鉱により1000万tが加わる(この炭鉱は2024年統合報告書には未掲載)。これにより、日本製鉄の石炭生産能力は年間7900万tとなり、BMA(BHP Mitsubishi Alliance:年間約6000万t)といった原料炭に特化した事業を上回る(持分比率を考慮しない場合)。

[5] https://www.glencore.com.au/operations-and-projects/coal/current-operations/bulga-coal
国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、既存の生産能力だけで2050年までの原料炭需要を賄うことができる: https://iea.blob.core.windows.net/assets/deebef5d-0c34-4539-9d0c-10b13d840027/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector_CORR.pdf
また、Critical Raw Material Allianceも、世界の原料炭の生産量が需要を37%上回っていると指摘している:https://www.crmalliance.eu/coking-coal

[6] 世界鉄鋼協会, World Steel in Figures 2024. https://worldsteel.org/data/world-steel-in-figures-2024/

[7] Steel Climate Impact:https://static1.squarespace.com/static/5877e86f9de4bb8bce72105c/t/624ebc5e1f5e2f3078c53a07/1649327229553/Steel+climate+impact-benchmarking+report+7April2022.pdf

[8] 鉄鋼業界で使用される石炭は原料炭と呼ばれ、コークス用炭が含まれる。コークス用炭は高炉に欠かせないコークスを製造するために必要な材料である。この石炭は主に深い地下から採掘され、一般炭と比べてメタン排出量が多い。https://www.woodmac.com/news/opinion/putting-coal-mine-emissions-under-the-microscope/

[9] 鉄鋼業界は長らく脱炭素化が難しい分野とされてきたが、新たな技術の登場により、石炭を使用しない製鉄方法への移行が可能になっている。 https://www.agora-industry.org/data-tools/global-steel-transformation-tracker#c425

[10] 三菱商事は一般炭事業から撤退。三井物産は2018年に一般炭鉱における最後の出資を売却

[11] 原料炭に関するポリシーを導入している16の金融機関の内訳は、銀行が10社、資産運用会社が5社、保険会社が1社。そのうち3社はオーストラリアに拠点を持ち、残りはヨーロッパを本拠地とする。ほとんどの原料炭ポリシーは直接的なプロジェクト融資に限定されているが、Reclaim Financeの調査によると、プロジェクト単位での融資は原料炭の拡張計画を進める企業が受け取る資金全体のごく一部にすぎないことがわかっている。スイスの保険会社Zurichは、最も厳格なポリシーの1つを採用しており、新しい原料炭鉱山やその開発企業を除外している。
https://reclaimfinance.org/site/wp-content/uploads/2023/11/Reclaim_Finance_Metallurgical_Coal_November_2023.pdf
https://reclaimfinance.org/site/en/2024/12/10/insurance-scorecard-2024-cut-emissions-today-to-insure-tomorrow/

[12] Global Efficiency Intelligence, Steel and Coal(2025年1月)
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