僕はいかにして歴戦の「婚活女子」と闘ってきたか【石神賢介】
『57歳で婚活したらすごかった』著者・石神賢介のリアル婚活レポート第5回【最終回】
コロナ禍で少子化が10年進んだと言われるなかで、結婚相手を求める男女は増えているようだ。実際に婚活アプリなどの利用者は男女ともに増加傾向にある。そこで、本気で結婚したいと願う57歳、バツイチ、フリーランスのライター石神賢介氏の最新刊『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)が話題になっている。「BEST TIMESリアル婚活レポート」連載第4回までで、石神氏が青山の少人数婚活パーティに参加し、知り合った女性たちとのデート事情を赤裸々に描いた。そのなかで、ご自身で性欲が強いと告白していた華道の先生・ユキコさんとのデート、ついにホテルへ。さらに別の婚活パーティーで知り合った看護婦のナオミさんとのデートが待ち構えていたーーー。【最終回】
■深夜のベッド体操
華道の先生のユキコさんからもコンスタントに連絡は来る。3度目のデートでのユキコさんからのリクエストは横浜へのドライブだった。中華街で食事をしたいという。横浜中華街の店は大きく2系統ある。一つは、萬珍樓や聘珍樓のようなメジャーな大型店。もう一つは、中華街ならではの小規模な店。こちらは、餃子のおいしい店、海鮮料理に強い店、中華粥専門店など、それぞれ個性を発揮している。ユキコさんが、餃子が食べたいというので、中華街大通りからひと筋入った水餃子のおいしい店を選んだ。
そこでお腹を満たした後は本/牧へ向かった。かつて米海軍の住宅街があった本牧エリアには、今もアメリカナイズされたバーやダイナーがある。
「今日こそは試してみる?」
アルコールが入り気持ちが高揚したユキコさんがお誘いしてくれた。
「ううーん……」
こちらはすぐに応じられない。性欲が強い話を彼女からはさんざん聞かされている。
「自信、ない?」
「ユキコさん、朝までなんでしょ?」
「うん。でも、朝までしなくてもいいよ。話し相手になってくれれば。私、した後は目が冴えて眠れないんだ。一人で起きているのが怖いの」
腰は引けていた。ことの後、朝まで起きている自信はない。このときすでに11時。かすかに眠気が訪れて来ていた。しかし、ここでしないのは男子として情けない。そのまま、みなとみらいエリアのホテルにチェックインすることにした。ツインルームを確保できたのだ。
ホテルへ向かうクルマの中、ユキコさんは遠足へ行く小学生のようにはしゃいでいる。途中、深夜営業のスーパーに寄り、飲み物や食べ物を買い込んだ。
そしてホテルの客室で――。僕は不合格の烙印を捺された。一度目は問題なくやれたと思う。しかし、時間を置かずリクエストされた二回戦は苦戦した。もはや体力の限界。それ以前に睡魔には抗えなかった。
「もう無理?」
ユキコさんが耳もとで訊ねる。
「うん……」
「眠い?」
「うん……」
「眠っていいよ」
「ありがとう……」
「その代わり、一つお願いがあるの」
「なに?」
「部屋の照明、消さないでほしいの。私は眠れないと思う。暗闇の中で、一人で起きているのが怖いの」
「わかった……」
そう言ったまま僕は眠りに落ちていった。
しかし、57歳のオヤジは悲しい。眠りについても、数時間すると、尿意で目が覚める。まぶたを開いた瞬間は、自分がどこにいるのか、理解できていない。部屋の様子をうかがうと、隅々まで照明が照らしている。
ああ、ホテルに泊まっているのだな――。認識する。そして急速に記憶がよみがえる。
横を見ると、ベッドでユキコさんがストレッチ体操に励んでいた。上半身はホテルのパジャマを羽織っているが、下半身はなぜかショーツもつけていない。
僕は彼女の様子に気づかないふうを装って、トイレへ向かう。用を済ませたら、最短距離でベッドに向かい、再び眠りに入る。しばらくすると、また眠りの浅い時間帯が訪れる。かすかにまぶたを開く。部屋の照明がまぶしい。さりげなく横を見た。ユキコさんが今度は激しく体操をしていた。仰向けになり、自転車のペダルをこぐように脚を動かしている。やはり下半身には何もつけていない。風邪をひかないのだろうか? お腹をこわさないのだろうか? 気になったが、声をかけずにまぶたを閉じた。
年齢を重ねた婚活において、とくに年齢が離れた男女において、夜の相性は大切な問題だ。たとえ心が通じ合っても、体力や性欲量に著しい差があると、そのギャップを埋めるのは難しい。それを痛感した一夜だった。
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