全体主義が進行中。わが国に残されている時間はわずかである【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第16回
■そもそも全体主義とは何なのか?
ウクライナ政府が昭和天皇を、ドイツのアドルフ・ヒトラー、イタリアのベニート・ムッソリーニと同列に全体主義の象徴として扱った動画をツイッターに投稿し、日本政府の抗議を受けて問題の部分を削除した。「現代ロシアのイデオロギー」と題した動画では、ウクライナに侵攻したロシアのプーチンを批判する映像の中で「ファシズムとナチズムは1945年に打ち負かされた」と記していた。
磯崎仁彦官房副長官は、「全く不適切で、極めて遺憾だ」「直ちに削除するよう申し入れた」と述べた。ウクライナ政府は外交ルートを通じて謝罪の意を表明。ツイッターにも「誤りを真摯におわびする。親切な日本の人々の気分を害する意図はなかった」と記した。
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では、ヒトラーとムッソリーニを同列に並べることは問題がないのか?
問題はないのかもしれないが、歴史認識は極めて大雑把なものになる。
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全体主義は個人より全体を優先させるという考え方である。なお、全体主義はそれぞれの国の歴史、社会構造によって出現の仕方が異なる。だから、ひと括りにして論じるのは乱暴だ。
ムッソリーニは運動の目標として「全体主義国家」という概念を掲げた。ファシズムは束ねるということだ。ファッショ(fascio)は「束」を意味する。ファシストは、国民の団結、結束を重視し、国家と個人の一体化を目指した。
一方、ナチズム(国民社会主義)はファシズム同様、神話を利用し、プロパガンダと暴力により運動を拡大したが、超国民的志向を持つナチスはファシズムの国家観とは異なる。
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気に入らないことがあるとすぐに「全体主義だ」「ファシズムだ」と大声を出す人がいる。しかし、全体主義という言葉はあまりにも安易に使われているのではないか。全体主義は近代特有の病である。だから、最初に近代の構造を理解しないと、全体主義もそれに抵抗する態度としての保守主義も理解できない。私事で恐縮だが、今回そのあたりの事情を『ニッポンを蝕む全体主義』(祥伝社新書)にまとめた。近代と全体主義の関係を理解すれば、今の日本で発生している間抜けな現象も根底の部分でつながっていることがはっきりすると思う。
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