「方向づけ」が社長の最大の仕事
人気経営コンサルタント・小宮一慶が教える「社長になれる人、なれない人」(2)
方向づけができない企業はどうなるか
「企業の方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」という経営に必要な3つの能力の中で、とりわけ重要なのが「企業の方向づけ」であることは前述しました。方向づけとは、何を実行し何をやめるのかという「戦略」です。現在のような経済環境が時として激変し、先が読みにくい時代には、何よりも戦略が重要になってきます。
方向づけを間違ってしまうと、企業はどうなるか。それは、経営危機に陥っているシャープのケースを見ても明らかです。同社は2015年3月決算で、2223億円もの最終赤字を計上することになり、国内だけで3500人、海外を含めると5000人もの従業員を削減すると発表しました。
今回のシャープに関する一連の報道の中で、私が愕然としたのが「何をやって何をやめるのかを決めて、会社の方向づけをしてほしい」という社員からの訴えに対して、経営トップは「下の人が育たないから自分が方向づけしなかった」と応じたという日経産業新聞の記事でした。この話が本当であれば、自社が存亡の危機を迎えている時に「下の人が育たない」という口実で、トップが方向づけの決断を先延ばしにしてきたのは、経営者として自分が何をすればいいのか分かっていなかったと言うしかありません。その結果、多くの従業員のリストラを招き、下の人を育てるどころか、下の人がいなくなるという最悪の事態に陥ってしまいました。
シャープの今後の見通しは厳しいと言わざるを得ません。同社は、1000億円あまりの資本金を一旦5億円にまで減らしたうえで、メインバンクからの2000億円もの借入金を返済不要の優先株に振り替えるという「デット・エクイティ・スワップ(DES)」を行い、借金を一部棒引きされた格好です。財務体質の改善を図っていますが、これらの施策はとりあえず倒産を回避するだけで時間稼ぎにしかならないでしょう。この間に銀行としてはシャープ全体、もしくは一部の事業の売却を模索しているのでしょう。会社のトップに方向づけのできない人物を置くと、こうした最悪の結果を招いてしまうのです。
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