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怪談の元祖「青頭巾」の舞台、大中寺の七不思議

歴史に埋もれた“人食い寺”伝説

 例年にない数の台風が上陸した8月も終わったが、残暑のまだ厳しい日本列島。まだまだ不思議な話を聞いて、肝試し的な気分に浸りたい人も多いのではないだろうか。近年ではCGの発達により、恐怖映像とその音響で肝を冷やすシーンも多いが、名刹に伝わる七不思議を知り、そのエピソードの不可思議さにゆっくりと震えてみるのもいいかもしれない。

『雨月物語』「青頭巾」(C)国立国会図書館蔵

 栃木県には江戸時代、曹洞宗を束ねた寺の大中寺がある。この寺は、国内怪談の元祖であり浮世絵のモデルにもなっている、江戸時代の作家・上田秋成の「雨月物語」にも登場する。

 そもそもこの寺は江戸時代以前、上杉謙信と北条氏康の和議の場になるなど、血みどろの歴史のなかで存続してきた寺。その周辺は合戦場であり、幾多の血が流されてきた背景からことからも、悲しい伝説が伝わったのかもしれない。

 なかでも「雨月物語」の「青頭巾」は、この寺にいた人食いとなった僧を問答で成仏させた禅僧の話が載っている。彼の墓に杖を立てると自然と芽と根が出て生い茂り、「この芽が生い茂るころには、この寺も栄えるだろう」と言い残したという。この僧こそ、大中寺を再興させた快庵妙慶禅師。人食いとなった悲しい性の僧が、やがて悟りを開き成仏することで寺が栄えたとして伝わっている。

 

 また、当時の激しい合戦の様子が伝わるものもある。「馬首の井戸」と「不開の雪隠」がそれで、敗軍の将の末路が悲しく描かれている。ほかにも釜戸で昼寝をしていた小僧が、誤ってつけられた火で焼け死ぬ「不断のかまど」、通ると不幸になる「油坂」、異変の起きる前、住職のみに聞こえる「東山の一つ拍子木」、神仏に足を向けて寝ることの戒めといわれる「枕返しの間」がある。

 いずれも、暗闇からなにか恐ろしいものが飛び出てくるような怖さはない。しかし、長い刻を刻んだ歴史のなかで引き起こされた事件が伝わっている。名刹の風情に揺られながら、時には人の引き起こした悲しくも恐ろしい話に触れてみるのもロマンなのかもしれない。

大中寺(C)栃木県

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