「橋下化する日本」に未来はあるのか?
代議制を否定する政治家の落とし穴
藤井聡(内閣官房参与)×適菜収(作家)の新春放談 「2017年、日本はどうなるのか?」第5回《集中連載》
トランプ米国大統領の発言が連日世界を揺るがしている。
アメリカが反グローバリズム路線に舵を切る中、
安倍政権は移民政策をはじめ、グローバリズム路線を突き進もうとしている。
作家・適菜収氏は話題の近著『安倍でもわかる政治思想入門』で今の日本の姿に警鐘をならした。
内閣官房参与・藤井聡氏も国の行方を憂えている。
そんな二人が「2017年、日本はどうなるのか?」を徹底放談。
代議制を否定する政治家
適菜 これはどこかでも言いましたが、貧乏人は金持ちになることが幸せだと思っているけど、金持ちはカネがあることに幸福感をもっていない。一生遊んで暮らせるような大金をもっている人たちが、一生懸命に働くのは、労働や仕事、仲間と一緒に何かを生み出すことに価値を見出しているからです。保守主義の本質はなにかを考えたときに、私は「愛」だと思うんですよ。日々の生活や守ってきたものに対する愛着です。マイケル・オークショットが言ったことも多分同じです。たとえば、お気に入りのセーターだったり、仕事に使っているボールペンだったり。政治で言えば制度ですね。安倍に一番欠けているのは、制度に対する愛です。だから軽々しく「社会をリセットする」と言ったり、制度の破壊を進める。つまり、安倍は保守主義からはもっとも遠い位置にいる政治家と言えると思います。
藤井 京都学派の哲学者、西田幾多郎の哲学「絶対矛盾の自己同一」も適菜さんがおっしゃったことと同じです。 日本的に言うと「和をもって尊としとなす」ですし、西欧でも「矛盾との融和」の力を「愛」と呼んでいる。ただし、こうした「愛」は、ジョン・レノンみたいな左翼のグローバリストの感覚、「国籍や国境にこだわる時代が過ぎ去った」という感覚とは全く違う。これは、「皆一緒」という発想で、おぞましい「全体主義」につながる。その意味で「地球市民」というのは危険な発想で、人間や文化の違い、豊穣性を認めないニヒリズムです。でも、西田の「絶対矛盾の自己同一」は、「違う部分を引き受けて統一することを目指す」というもので、グローバリストやニヒリストたちの全体主義と根本的に違う。
適菜 ヤスパースも言っていますが、哲学は答えを出すことが目的ではなく、矛盾を矛盾のまま抱えることだと。知に対する愛なんです。ヘーゲル的な「哲学史」、学問としての哲学を批判したわけですね。わが国では、アメリカのシンクタンクから「地球市民賞」をもらったグローバリストが、保守を名乗ったりしていますが、国全体が発狂しているとしか思えません。保守は、善悪二元論とか、白黒はっきりつけるという話ではない。ディベートでどっちが勝つかという話でもない。複雑な問題を複雑なまま引き受けるということです。考え続けることに対する愛ですね。知に対する愛です。住民投票で民意を問うとかそういう話でもない。そもそも、白黒はっきりつけがたいものについて、議論を行い、利害調整をするのが政治の役割です。民意を背景に、数の論理で政策を押し通すのは、議会主義の否定です。
藤井 住民投票は必ず憎しみを産む。都構想では大阪市民が割れたし、イギリスでも国民が割れた。多数決の先にあるのは内乱です。極論すれば、多数決で負けたほうが悔しかったら内乱を起こすしかなくなります。橋下氏の一番の問題はそこだった。議会の破壊です。
適菜 「僕が民意によって選ばれたんだから、白紙委任だ」と。橋下だけではなくて、菅直人もほぼ同じことを言っている。
藤井 そうです。橋下氏が典型ですが、それ以外の多くの政治家もその罠にはまっています。日本中の政治家が今、どんどん橋下化している。
適菜 その典型が安倍晋三です。「文句があるなら次の選挙で落とせばいい」と思っている。つまり、議会主義の根本がわかっていない。
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