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森博嗣 道なき未知「まとめるな、まとまるな」

まとめるな、まとまるな


「まとめサイト」「集まりたがる人」「集まりたがらない人」……現代を象徴するもののなかで考えるべきこととは? 
 早々に重版をするなど反響を呼んでいる作家・森博嗣による『道なき未知』には「発想」ひとつでわれわれの日常が変えられるヒントが隠されている。本書より「まとめるな、まとまるな」。

【道なき未知 まとめるな、まとまるな】

■まとめたがる人たち

 最近のネットの特徴の一つでもあり、また、年末になると自然増殖するのが「まとめ」なるもの。
 コンテンツとして、需要があるからやっているのかどうかはわからないが、とにかく、自分から新たに生み出すのではなく、現状を取りまとめるだけの作業である。調査ならばまだ労力が必要だが、ただ個人の好みを「ベストテン」みたいに集計している馬鹿な内容も数多い。
 マスコミが、これをする傾向にある。新たに取材をする必要がない。既存のコンテンツから、良いところを引っ張り出してくるだけだ。面白いものを集めるのだから、つまらないものにはなりにくい。コストパフォーマンスに優れている。マスコミは商売だから、これをやらないわけにはいかないのだろう。
 しかし、それを見て、個人でやって自己満足している光景は、少々痛い、と感じるが、いかがか。
 おそらく、ネット時代の子供たちは、学校の宿題というか、休みの自由研究などでも、ネットからただ集めてくるだけの「調査」をして、それが研究だと思い込むのだろう。
 研究論文には、最初に「既往の研究」なる章がある。そのテーマの研究の動向を取りまとめた内容だ。これをしないと、研究が始められない。だが、この部分は研究ではない。研究の現状を知ることが、スタート地点であり、そこから研究者は自分の道を切り開くのである。これを「考える」という。
 つまり、まとめるだけの行為は、なにも「考えていない」のだ。考えるために、スタート地点に立って、走り出そうとしている姿勢である。
 考えていないから、オリジナリティもない。「着眼点」くらいは評価できるけれど、それはただ目を向けただけにすぎない。そこから観察することも、まだ始まっていない。
 一番感じるところは、とにかく多くの人が考えない人生を送っているのだな、ということである。
 けっして最悪ではない。平和だし、省エネである。そういう消費だけの人生も、あって良いだろう。ただ、少なくとも、楽しさはない、と僕は知っている。僕が「考える」理由は、この一点だけだ。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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  • 森 博嗣
  • 2017.11.16