象徴となったふたりの物語~「全国初出場」をつかみ取るまでの軌跡~
小松市立高等学校吹奏楽部の大きなピンチ
福井県の武生商業高校が6年連続、石川県の小松明峰高校が2年連続で代表を占めていた北陸支部に、2019年は異変が起こった。彗星のごとく現れた初出場校。だが、その裏側には大きなピンチと苦渋の決断があった――。
■全国を目指す吹部に走った亀裂
小松市立高校吹奏楽部の練習は「始礼」からスタートする。前に立つ部長がリードし、モットーを唱和する。
「愛」
「他人を愛すること!」
「美」
「美しいものを美しいと思える豊かな心をもつこと!」
「夢」
「夢をもって追いかけること!」
「文化祭まであと」
「3日!」
「全国大会まで」
「あと55日!」
2019年、小松市立高校は全日本吹奏楽コンクールに出場することが決まっていた。他の支部に先駆けて北陸大会が行われたのは8月11日。出演順が3番と早かった小松市立は、高校の部の代表に全国で一番乗りした学校だった。
それだけではない。小松市立が代表に選ばれるのは初めてのこと。2015年の活水中学校・高校以来、4年ぶりに全日本吹奏楽コンクールに登場する初出場校となったのだ。
そのニュースは瞬く間にSNSを駆け巡り、全国の吹奏楽関係者やファンにとって大きなサプライズとなった。
学校創立60周年の年に達成した快挙。正門の横には「祝 全日本吹奏楽コンクール初出場」の看板が誇らしげに飾られていた。
しかし、吹奏楽部が歩んできたのは、そんな華々しいイメージとは違う茨の道だった。
モットーの唱和をリードした3年生の部長、「コムギ」ことフルート担当の藤村小麦は、正確には「後期部長」。コムギの前にもう一人の部長が存在したのだ。
現在、小松市立高校吹奏楽部を率いているのは安嶋(やすしま)俊晴先生。前任の金沢桜丘高校を2012、2013 年と2年連続で全国大会に導き、2012 年には金賞も受賞している。北陸を代表する名指導者の一人だ。2014年から小松市立に異動になったが、安嶋先生にしてみると「今年の全国大会出場は不思議ではない。むしろ、ここに来て5年もかかってしまったか」という思いだった。
しかし、誰も全国大会を経験したことがない学校を「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる特別な場所へ連れていくのは、やはり並大抵のことではない。
その象徴が「二人の部長」だ。
「前期部長」というよりも、当初は一般的な「部長」として部員たちの前に立っていたのは3年生でユーフォニアム担当の「マユ」こと西出真唯だった。
小松市立では、部長は3年生の引退に際して部員たちが投票を行い、票の多い者と先生が面談をして最終決定する形になっている。
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『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』
オザワ部長 (著)
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールをめざす、ひたむきな高校生の青春を追いかけたノンフィクション・ドキュメント第4弾。 今回、実力があるのにコンクールでは涙を飲んできた、そういう高校(吹奏楽部)を前面に押していきます。常連校のようなある意味“でき上がった"子たちではなく、実力はあるのにまだ出し切れていない、その分、どうしてもコンクールに出場したいという闘志がむきだしの熱い想い、狂おしいほどの悩み、そして大きな壁を乗り越えてゆく姿を魅せていきます。 【掲載校】 〇磐城高校(東北) 〇明誠学院高校(中国) 〇伊奈学園総合高校(関東) 〇活水高校(九州) 〇小松市立高校(北陸) 〇八王子高校(関東) 〇東海大仰星高校(関西)