「母ちゃんを見て!」難病「魚鱗癬」の我が子を抱きしめた瞬間、若き母と父はすべてを受け入れる覚悟を決めた
難病を持つ我が子を愛する苦悩と歓び(18)
◆母ちゃんを、見て。
初めて抱きしめる我が子。
強く抱き締められず、そっと抱きよせる我が子。
しかし、その温もりはなかなか感じない。
陽(よう:我が子)と私の間に、まだまだ隔てるものが多い。何枚ものエプロンに手袋、分厚いバスタオル、ごわごわして、やわらかくない。
それでも陽の温もりを感じるため、じっと待った。
自分の胸と腕に、全神経を集中させる。
呼吸をする動きを感じても、それが陽のものか、私のものか、それすらもわからないでいると、傍で見守ってくれていた看護師さんが陽を覗き込み、
「やっぱりママは分かるんやね〜」
「こんな陽ちゃんの穏やかな顔、見たことないよ。落ち着くんやねぇ」と声をかけてくれた。
そうかな?
いつもと変わらない?
分からないよ。涙が滲んでしっかり見れない。
分厚い皮膚からは、独特な臭いがする。
塗り薬の臭いだと思いたかったけれど、これは陽のにおい。
それも、抱きよせることによって、いつもより感じた。
前よりも見せてくれることが増えた、可愛い黒目。
その可愛い目で、私を見てほしい。
母ちゃんを、見て。
今抱っこしてるのは、陽の母ちゃんだよ。
遅くなってごめんね。
待っていてくれて、ありがとう。
頭を撫でてあげたいけれど、まだ頭を触ることはできない。
かわりに、そっと唇に触れた。
そして5分も経たないうちに、初めての抱っこは終わる。
喜びと緊張で、手袋の中が手汗でしめっていた。
この日からタイミングが合えば、抱っこできるようになった。
限られた時間の、唯一のスキンシップ。
ただひたすらに、我が子を抱き寄せた。
そして陽が産まれて2カ月と少し、
色々な検査結果を聞くため、夫と病院に向かうこととなった。
- 1
- 2
KEYWORDS:
産まれてすぐピエロと呼ばれた息子
ピエロの母
本書で届けるのは「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」という、
50~100万人に1人の難病に立ち向かう、
親と子のありえないような本当の話です。
「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」
このような気持ちから母親は、
息子の陽(よう)君が生後6カ月の頃から慣れないブログを始め、
彼が2歳になった今、ブログの内容を一冊にまとめました。
陽君を実際に担当した主治医の証言や、
皮膚科の専門医による「魚鱗癬」についての解説も収録されています。
また出版にあたって、推薦文を乙武洋匡氏など、
障害を持つ方の著名人に執筆してもらいました。
障害の子供を持つ多くのご両親を励ます愛情の詰まった1冊です。
涙を誘う文体が感動を誘います。
ぜひ読んでください。