【難病・魚鱗癬】髪の毛もまつ毛も眉毛もない。 真っ赤な皮膚で・・・「あれうつらへんのやろか」の声に、暗闇に沈んだ母の心
難病を持つ我が子を愛する苦悩と歓び(32)
難病「道化師様魚鱗癬」を患う我が子と若き母の悲しみと苦しみ。「ピエロ」と呼ばれる息子の過酷な病気の事実を出産したばかりの母は、どのように向き合ったのか。『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』の著作を綴った「ピエロの母」が医師から病名を宣告された日、母は我が子の「運命」を感謝しながら「これからの親子の人生を豊かなものにしよう」と新たなる決意をした。
しかし、その決意は、日常生活に潜む「偏見」の声との闘いでもあった。
差別は「私たちとは違う」という生活の何気ない風景のなかに根ざしている。この悪意なき人々の声と若き母はどう向き合ったのか。
難病と差別の核心にピエロの母が目を背けずに綴ります。
■暗闇に沈んだ心
前回の病院からほどなくして、今度は地元の小さな小児科への受診へ向かう。
予防接種のみ、この小児科で受けることとなっていた。
ある曜日の時間指定で、乳児の予防接種を行っているため、いつも駐車場に停められないほど、たくさんの親子が集まる。
もちろん気持ちの切り替えなんて、できていない。
行きたくない。でも、行かなくてはいけない。
陽(我が子)のためだと、言いきかせ小児科のドアを開く。
受付をしていると、
「今何か月ですか?」
「うちまだ髪の毛生えてこやんくて~」
「〇〇ちゃんまつ毛長いね~」
「保育園て考えてますか~?」など、
お母さん同士の会話が聞こえていた。
ところが受付を終らせ、私たちが振り返ると、ピタッと会話が止まった。
この時の陽は、髪の毛も、まつ毛も、眉毛もない。
真っ赤な皮膚で、目は裏返り、足も指がない。
ただ視線だけを感じながら、一番端の椅子に座った。
そしてその瞬間、隣の椅子に座っていた親子は立ち上り、別の椅子へと移動した。
私はもう、陽を抱き締め、ひたすら下を向くしかなかった。
するとまた、看護師さんから
「奥の部屋へどうぞ」と奥へ案内され、
少しホッとして、奥の部屋で陽と2人きりで座っていた。
しかし、その部屋に扉は無く、小さな小児科なので、待合い室の話し声は全て聞こえていた。
「今の、見た?」
「なんやったんやろ、あの子」
「全身火傷さしたったんやろか?」
「可哀想になぁ」
・・・。
そんなことする訳ない。全身火傷させていない。悔しい。
けれど、こんな所で絶対に泣くもんか。泣くもんか。
そう耐えていると、やっと予防接種の開始時間となり、順番に名前を呼ばれていく。
そしてまさか私たちのいる奥の部屋が、予防接種の終わった親子が様子をみるために、
待機する部屋だったなんて知るはずもなく、次から次へと、予防接種を終えた親子が入ってきた。
付き添いで来ていた、見ず知らずのおばあちゃんは、
「あれ、うつらへんのやろか」と聞こえるように言った。
きっと孫可愛さに言ったのだろうとは、すぐに分かった。
大事な孫にうつったりしたら大変、そう思うのも当然のことだと。
しかし、この時の私には「うつりません!」と言うこともできなかった。
また、ひたすら陽を抱き締め、視線に耐えられず、下を向いていた。
はやく、はやく帰りたい。
はやくこの場から、逃げ出したい。
夫が「一緒に行こか?」と言ってくれていたのに、強がって、平気な振りをして、ひとりで来たことを後悔していた。
素直に甘えれば良かった。
買い物へ行くだけでも、指をさされ、色々と聞こえてくる言葉。
聞きたくない、聞かなければ良いだけなのに、
過敏になっているのか、そんな言葉だけが耳に入ってくる。
病院に通う度に、家の外に出る度に、私は深く暗いどこかに、沈んでいくように感じた。
退院後、このような日々が続き、私の心は壊れていった。
心がずっと、泣き叫んでいた。
陽や夫、親族、友人に向ける笑顔の裏で、私の心は一切笑っていなかった。
笑えるはずがなかった。
そしてついに、私の心の叫びが、
今までの自分では考えられないような、行動を起こすこととなった。
【参考資料】
本書をもとにCBCテレビ『チャント』にて「ピエロと呼ばれた息子」 追跡X~道化師様魚鱗癬との闘い(6月26日17時25分より)が放送されました。
https://locipo.jp/creative/41a0b114-7ee7-4f24-976c-e84f30d2b379?list=5a767e90-3ff9-479c-a641-e72e77cf42c3
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【参考文献】
『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』(アメーバブログ)
産まれてすぐピエロと呼ばれた息子(書籍)
ピエロの母
本書で届けるのは「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」という、
50~100万人に1人の難病に立ち向かう、
親と子のありえないような本当の話です。
「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」
このような気持ちから母親は、
息子の陽(よう)君が生後6カ月の頃から慣れないブログを始め、
彼が2歳になった今、ブログの内容を一冊にまとめました。
陽君を実際に担当した主治医の証言や、
皮膚科の専門医による「魚鱗癬」についての解説も収録されています。
また出版にあたって、推薦文を乙武洋匡氏など、
障害を持つ方の著名人に執筆してもらいました。
障害の子供を持つ多くのご両親を励ます愛情の詰まった1冊です。
涙を誘う文体が感動を誘います。
ぜひ読んでください。