【30万人に1人の難病・魚鱗癬】転勤していたピエロの父「父ちゃん、戻ってきたぞ!」息子に無条件の愛情を感じ初めて嬉し涙が流れた
難病を持つ我が子を愛する苦悩と歓び(38)
難病「道化師様魚鱗癬」を患う我が子と若き母の悲しみと苦しみ。「ピエロ」と呼ばれる息子の過酷な病気の事実を出産したばかりの母は、どのように向き合ったのか。『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』の著作を綴った「ピエロの母」が医師から病名を宣告された日、母は我が子の「運命」を感謝しながら「これからの親子の人生を豊かなものにしよう」と新たなる決意をした。
今回は、ピエロの父の手記。難病で苦しむ我が子に「悔しさ」で涙する妻に寄り添いながら前を向こうとした父。と、我が子は無条件に可愛い。そんな父の思いが溢れます。
■息子はデカくなってた
息子が産まれて1カ月経つ頃。私たちは別々に生活していた。
私は東京で仕事の毎日。妻は実家で搾乳(さくにゅう)をし、母乳を冷凍パックに入れ、病院へ持って行く毎日。お互い自分のすべきことをする。それしかできることはなかった。
妻とは何度か電話をし、お互いの状況を話し合っていた。たまに雑談や冗談話などで笑い合ったりもしていたが、やがて妻は、私が何を言っても「うん」としか言わなくなり、明らかに元気がなくなってきているのが分かった。
ときおり、無言ですすり泣く声だけが聞こえてくる。この状況が続くのは良くない。妻が心配でならなかった。
そして。周囲のご配慮や上司との相談の結果、私は東京から地元へ引っ越すこととなった。
急いで引越し準備を行い、慌しい毎日が続いたが、途中、妻も東京へ来てくれて、準備や各種手続きを手伝ってくれたので、何とかスムーズに終わらせることができた。
その間の母乳はと言うと、こちらで搾乳し、冷凍したものを、宅配便で病院に送り続けていた。
妻は日中、明るく振舞っていたが。夜中、また妻は涙した。やはり辛さに耐えられないのだろう。下を向いて静かに泣く妻。私は励まし続けたが、息子への思いが強い分、妻の涙は止まらない。それでも何度も何度も励ました。だが、状況は変わらない。
数時間が経ち、私も精神的にまいりそうになり、つい口調が激することもあった。
「今は前を向くしか無いよ!! 泣いてもどうにもならんよ」
「分かるよ、でも悔しい、悔しいよ」
震えた声で涙を流す妻。焦る自分に後悔した。妻の立場で考えなければ……。
私はもう悲しみで泣くことはない。その分、全力で妻を励ます。母ちゃんが今、くたばってミルクを作れなくなったら、息子が栄養をとれなくなる。息子のためにも頑張って、ふたりで朝まで話し合った。
そして妻は少しずつ、元気を取り戻していった。
ついに引越しの日。東京を離れ、妻と帰省。
ふたりで真っ先に、息子のいる病院へ向かった。久々の面会。早く会いたい!!
病院に着き、NICU(集中治療室)へ。
部屋に入った途端、息子のベッドの方から「ふぎゃああ~!」と大きな泣き声が聞こえた。カーテンの奥には息子がいる。期待がどんどん高まってくる!
「父ちゃん、戻ってきたぞ!」
心の中でそう言いながら、カーテンをめくった。
すると目に映ったのは、看護師さんに抱かれながら、大声で泣く息子。3週間ぶりに見るけど、何か、でかい!
以前はすごく小さな身体だったのに。黄色くて固い皮膚に覆われた顔、皮膚が裏返って真っ赤な目、めくれ上がった唇、しわしわの肌も……ずいぶん、改善している!
赤ちゃんの成長って、なんて早いんだろう。数週間でこんなに変わるのか。お坊さんのようなツルツル頭で少しぷっくりした、まるで別人のような息子。
驚いてる私のことなど構わず「ふぎゃあああ~!!」と息子は泣き続けていた。お腹が空いてるらしい。母ちゃんのミルクをいつもおいしそうに飲むらしい。私たちが頑張る以上に、この子も頑張って自分のできることをしていた。
「頑張ったんやなあ、お前」
私は自然と笑顔になった、と同時に涙が出てきた。産まれて初めての感情だった。悲しくて流れる涙じゃなく、嬉しくて流れる涙。周囲を見たが、妻も看護師さんも、息子を見て微笑んでいる。泣いてるのは自分だけだ。皆にバレないよう背を向けて、目をぎゅっと閉じてごまかした。
その時、上司に聞いた、ふたつの〝イイ笑顔〟を思い出した。
「赤ちゃんを見たときの顔」
「相手に久々に会ったときの顔」
私は息子を見たとき、同時にふたつのイイ笑顔をしていたのか。
少しニュアンスは違うかもしれないけど……。
最高の笑顔をくれてありがとう。
息子が大きくなったら、そう伝えたい、と思った。
【参考資料】
本書をもとにCBCテレビ『チャント』にて「ピエロと呼ばれた息子」 追跡X~道化師様魚鱗癬との闘い(6月26日17時25分より)が放送されました。
https://locipo.jp/creative/41a0b114-7ee7-4f24-976c-e84f30d2b379?list=5a767e90-3ff9-479c-a641-e72e77cf42c3
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【参考文献】
『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』(アメーバブログ)
産まれてすぐピエロと呼ばれた息子(書籍)
ピエロの母
50~100万人に1人の難病に立ち向かう、
親と子のありえないような本当の話です。
「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」
このような気持ちから母親は、
息子の陽(よう)君が生後6カ月の頃から慣れないブログを始め、
彼が2歳になった今、ブログの内容を一冊にまとめました。
陽君を実際に担当した主治医の証言や、
皮膚科の専門医による「魚鱗癬」についての解説も収録されています。
また出版にあたって、推薦文を乙武洋匡氏など、
障害を持つ方の著名人に執筆してもらいました。
障害の子供を持つ多くのご両親を励ます愛情の詰まった1冊です。
涙を誘う文体が感動を誘います。
ぜひ読んでください。