不動産の世界はしばしば海に例えられる。遠い過去から今に至るまで、腕利きの船乗りたちがこの海に挑み、荒波に浚（さら）われて藻屑（もくず）になっていった。不動産に魅入られ、不動産に挑戦した者の多くが海の底へと沈んでいった。それでもなぜ人はこの海に挑むのか。そこには見たこともない財宝がそこかしこに眠っているからだ。
　本ページは、荒々しくも魅力に満ちた不動産業界という大海を渡り、財宝を発見するための航海術を記した辞典であり、大手デベロッパー、大家、地主、ブローカー、地場管理会社の5人がそれぞれの立場で、奥深き賃貸の世界を語りつくしたものである【「全宅ツイ」メンバー参照】

■壁に耳あり、踊り場に目あり？

どエンド君（以下・ど）——合鍵でかわいい女性入居者の部屋に忍び込んじゃうタイプの管理会社が北海道（※）にありますね。

赤すぐり（以下・赤）——うちは合鍵一切持たないことにしてます。詳しくは言えないんですが、オーナーが合鍵を使って……（声が小さくなる）。

ど——うははは。職業別信用度ランキング下位常連の不動産屋さんか、やまほどローンを抱えた多重債務者の大家さんか。あなたが自宅の鍵を預けるならどっち⁉　 どっちも嫌だー。

赤——本当にそうですよね…。

ど——合鍵なしにするのはスマートですね、いざとなれば鍵屋さんに開けてもらえばいいし。ところでピカピカのオフィスビルの鍵ってどうなってるんですか？　いまはガチャって回す鍵は使わないんですよね？

デ——旧耐震ビルは「重たい真鍮製」のガチャガチャ鍵がまだ主流かな。でもいわゆるＳクラスビルは全部カードキーで入退室管理してますね。
　夜の22時以降に巡視がそのテナントのセキュリティカード持って見回りに行くんだけど、男女があらぬことをしてるってのが割と日常茶飯事で。それもテナントの専有部内ならおとがめなしなんだけど、フロアの一番奥にある薄暗い給湯室とか、あと階段室の屋上につながる踊り場とかでなんかやってる人とかけっこういて。
　巡視さんに見つかると社名と名前を確認されて、事故報告として翌日社内回覧されるので気を付けてね。もちろんテナントの総務にも通報するよ。

ど——その巡視は免許証取り上げて確認するんですか？

デ——そこまではしないかな。

ど——じゃあ、ビル内のどこかの会社名を言って、適当な名前を言えばいいんだ。

デ——そうね。でも、あのでっかい懐中電灯でいきなり自分をバッと照らされると、とっさのことだと結構みんなホントのこと言っちゃうみたいよ。
　あと、最近の大型オフィスビルはテナントからカードキーをもらわなくても管理センターから遠隔であけられるようになってる。

（※）約6万戸を管理する北海道大手の不動産会社・常口アトム（札幌市中央区）に勤務していた元従業員が、在職中に合い鍵を使い管理物件の入居者宅に窃盗目的で侵入したとして3月に逮捕されていることがわかった。逮捕された元社員は旭川市内の店舗に2003年から16年11月まで約13年間勤務していた。北海道警察本部は元社員の自宅から約200本の合い鍵を押収している。業務上入手できる鍵を悪用した住宅侵入事件は同社にとって初めてではない。

※「全国賃貸住宅新聞」（17年6月19日）

（ウル技04へ続く）