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100点は無理だけど、60点主義も切ない。介護本を読んで考えさせられたこと。

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第三十五回

■あと10点。

 母はお風呂が好きだったから、本当はもっと入りたかったはずである。ぼくががんばれば、あと週に1回は、入浴を増やすことができたはずだ。今となれば、それほど難しいことには思えないのに、でも、当時はその1回を増やすことができなかった。手抜きを正当化して、言い訳に使っていたからだ。

 今、介護を終えて振り返ると、後悔するのはそれらの手抜きの部分である。

 もっとできたはずなのに……。もっとしてあげられることがあったはずなのに……。

 この種の心残りは、介護を終えた家族の誰もが共通して口にすると言われるが、手を抜いた自覚のある者は、なおさら後悔が残るのではないだろうか。残るというよりも、むしろ時間が経つにつれ、悔いが増していく感覚さえある。

 全力でやりきったという充実がある人は、時の経過とともに、しんどい記憶もいい思い出に変わっていくのだろう。しかし、手を抜いた、抜きすぎたという後ろめたさのある者は、その心残りが消えることはない。

 だから60点主義でいくと、もしかしたら、のちのち後悔するかも知れない。100点満点をめざして、母親とへその緒がつながってしまうのもまずいけれど、常時60点だとたぶん、ちょっと足りない。

 あと10点、がんばれば良かった。今はそう思う。もう取り返せないけど。

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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