意外と知られていない銀行と国債のしくみ:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第3回
中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義
■景気が良くなって何が悪い?
このように、国債を発行しても金利は上がるわけがないのですが、それでも頑として「金利が上がる」ことにしたい人はどうしてもいるんですね。そういう人は「そんなことを言ったって、例えば日本の財政破綻が心配になって、みんなが国債を投げ売りしたらどうなるんだ?」とよく言うわけです。
なるほど、国債が投げ売りになったら、たしかに金利は上がるでしょう。でも国債は、第一回で説明したようにデフォルトなんかしません。元本保証になっているのです。元本保証の債券の金利が高くなったら、私なら買いますね。ですから、投げ売りが始まった瞬間にみんな殺到して国債を買いまくるので、金利はまたガーンと下がります。つまり、投げ売りなんか起こらないということですよ。
でも、百歩譲って、なんらかのパニックになって投げ売りになる可能性も無いとは言えません。元本保証で、かつ投げ売りになって金利が高いけれども、なぜか「いやいや、俺は買わない」みたいな人が多い状態、要するに世の中がおかしくなって国債が買われなくなるとしたら、金利は上がるかもしれません。そんなことは、ほとんど想像できませんが、仮にそうなったとしましょう。
でも、そうなったら日銀が買えばいいわけです。そもそも日銀は、今でも500兆だか600兆だか国債を買っていますよね。買った結果どうなっているかというと、金利はゼロになってしまって、最近ではときどきマイナスになっています。だから、金利の上昇を止めることは、できるんですよ。
そう説明しても、まだ反論したい人はこう言います。
「いや、今はデフレだからいいけれど、景気が回復したら金利が上がる。そうしたら金利が上がって、借金で首が回らなくなる」と。
ああなるほど、たしかに景気が良くなったら金利は上がるんですけれど、ところで、それの何が悪いんですか? そもそもみんな、そうなることを望んでいるのでは?
例えば、バブルの絶頂期の1990年、日本の国債の金利は6%もありました。そのとき財政破綻は心配されていたでしょうか? もちろん、そのときの財政は黒字でした。当たり前です。バブルで景気が良いので、税収増で財政赤字がどんどん減っていったわけです。
景気が良くて金利が高い。それの何が悪いのか全然理解できません。しかも、景気が良くなると税収が上がって財政赤字が減るに決まっているわけです。
そもそも、国債の返済をするときは、普通は税金を上げたりせず、「借換債」を発行します。つまり「国債を返済するために、また新規に国債を発行する」ということをやるわけです。だから、金利が上がったとしても、金利分も含めて借換債で返済すればいいわけで、なんの問題もない。
どうしても金利が上がるのが嫌なんだったら、また日銀が国債を買って、金利を下げればいいでしょう。景気がいいのに金利を下げると、たぶんバブルになってしまいますから、普通はやりませんけれどね。
なんにせよ、「景気が回復すると金利が上がる」ことの何が良くないのか、全く理解できません。
特に政治家の先生方はよく「財政赤字は将来世代のツケだから、これ以上増やしちゃいけない」と仰いますけれど、なぜ「財政赤字は将来世代のツケ」と仰るのかというと、発行した国債を償還をするときに税金で返さなきゃいけないので、税金を上げなきゃいけないと思い込んでいるからですね。
でも、これまで説明してきたように、そんなことをする必要は全然ないのです。自国通貨を発行する政府は、金利分も含めて借換債を発行すれば良いだけです。こんなことは、べつにインチキでもなんでもなくて、普通に行われていることです。国債の返済のためにどんなに政府の債務が積み上がっても、また借換をやればいいので、将来の増税は全く必要ありません。
増税が必要かどうかは、国債の償還のために必要かどうかではなくて、第二回で説明した「機能的財政論」で考えてください。例えば、「インフレがひどい」みたいな場合には増税してもいいですけれども、べつにインフレがひどくなっているわけでもないのなら増税する必要なんか全くなくて、借換債で返せばいい。とにかく、「財源」という発想から一回離れる必要があるのです。
(第4回へ 続く)