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インフレになって何が悪い?:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第4回

中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義

 

■過剰なインフレを抑える自動安定化装置

 

 第2回で「財政支出を抑制したり増税したりすると、インフレはたしかに止まります」と説明しましたが、実際には無理に増税をしなくても自動的に税金が重くなって、インフレは自然に収まるようなしくみになっています。

 法人税を例に考えてみましょう。経営者なら誰でも知っていることですが、法人税は赤字企業には課されず、黒字企業にだけ課されます。つまり景気が悪いときは赤字企業が多いので、そこからは法人税は取られない。逆に景気が良くなると黒字企業が多くなるので、法人税が重くなります。

 ですから、景気が良くなるとインフレになりかけるわけですが、そのときには法人税が勝手に重くなるので、インフレが抑制されます。デフレのときは逆ですね。これを「自動安定化装置」と言います。

 法人所得にかかる法人税だけでなく、個人所得にかかる所得税も同様で、所得に課せられる税というのは、当たり前ですが景気が良いときは重くなるし、景気が悪くなると軽くなります。従って、景気が良くなったからといって急に増税しなくても、勝手にインフレが抑えられるしくみが、すでに組み込まれているのです。

 さらに言えば、インフレで景気が良くなると、もちろん消費も増えますけれど、企業は投資もします。設備投資というのは、言い換えると「数年後、設備能力が増大する」ということであり、あるいは研究開発投資は「将来、技術革新で新しい技術が生まれる」ということですから、それによって供給力は拡大するんです。この場合も、供給不足が解消されるわけですから、インフレは収まりますよね。

 このように、需要が増えるとみんなが投資をして、技術開発をしたり起業をしたりして、供給力がアップする。その結果インフレが抑えられる。経済成長というのはこのようにして起こるわけです。需要だけが拡大してインフレが止まらなくなるということは、まずないんですね。

(第5回〈最終回〉へ つづく)

 

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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