半年分罪けがれを払う神秘の輪
――茅の輪の知られざる起源と歴史を探る
~6月の行事を学び直す~
■「季節行事」の意味と由来を知る・6月編
■茅の輪の起源と蘇民将来
小学生の頃、休日が1日もない6月が嫌いだった。
休日がないせいか、ほかの月より長く感じられたものだ。「行事もないね、衣替えくらいのものだ」と思った、あなた。間違っています。
6月には半年に1度の大行事が神社で行われる。
それは「大祓(おおはらえ)」という。
元日から半年の間に犯されてきた数々の犯罪や悪しき行為で世間に染みついた罪けがれを払い落とし、清めるという行事だ。さまざまな欲や悪意が入り乱れる現代社会で、こうした古代からの〝お清め〟が今も粛々と行われているというのは、本当にありがたいことだと、欲望の固まりのような筆者は思う。
このおかげで日本はかろうじて日本たりえているのかもしれない。
さて、大祓は6月30日と12月31日に行われるが、6月のほうは「夏越(なご)しの祓え」ともいう。この夏越し祓えでは、境内に茅(ちがや)で作られた直径2mほどの輪が立てられる。これを「茅(ち)の輪」という。これを8の字を描くように左・右・左とくぐると、気がつかない間に犯してしまった罪や災いを祓うことができるのだとされる。
なぜ茅の輪をくぐると災いが祓えるのか、それについては一つの神話が伝わっている。『備後国風土記』に収録されたものが有名なので、それに基づいてざっくりとお話しすると――
昔、北の海に住む武塔神(むとうのかみ)が南の海の神の娘に求婚しようと旅をしていたところ、備後国で日が暮れてしまった。そこで一夜の宿を借りようとしたが、富裕な巨旦将来(こたんしょうらい)は物惜しみをして泊めようとはしなかった。いっぽう、兄の蘇民将来(そみんしょうらい)は貧しかったが武塔神を快く迎え、精一杯のもてなしをした。
求婚の旅からの帰路、武塔神は蘇民将来の家を訪れ、茅草で輪を作って家族とともに腰につけるように言った。翌日、村の人々は茅の輪をつけた蘇民将来の家族を残して皆殺しにされていた。
武塔神は蘇民将来に言った。
「私は須佐之男命(すさのおのみこと)である。今後、疫病がはやるなどの災厄があっても、蘇民将来の子孫だと言って腰に茅の輪を下げれば、その災いから逃れることができる」
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