著者×担当編集者が語り合う“ひきこもりの問題”-今ひきこもりの君へおくる踏み出す勇気-
「非ひきこもりの君」にも知ってほしい「ひきこもり」のこと
暗闇から手を伸ばす方法とは…
●山)──既に引きこもっていて、ずっと部屋に閉じこもっている状態からの「前に出ることの難しさ」「一歩踏み出すことの難しさ」を感じます。元・引きこもりの先生はどうやって復活できたのかをお話しいただければ…と思います。
■吉)──意外かもしれませんが、まずは身体づくりから。身体づくりをしてないと鬱傾向になって、本来出るはずの気力がなくなるっていうのがあります。
●山)──確かに、少し意外ですね。
■吉)──次に適切な環境を見出すことです。例えば精神的なストレスを感じることなく、適応できる場所を明確にすること。そして、これが重要なんですが…スモールステップで行動していくということです。
いきなり週5日働くことはほぼ不可能なので、週1のバイトでいいからやってみたりということです。ひきこもりが長期化すると、場合によってパニック障害みたいな症状が出てきたりすることもあります。例えば電車に乗れなかったり。そういった人たちは、はじめは改札を通ればいい、次はホームに上がればいい。今度は1駅乗ってすぐ降りればいい…少しづつパニック障害を改善していくんです。
●山)──まさにスモールステップですね。
■吉)──引きこもりにも同じことが言えます。大半のひきこもりの人は真面目だから、今まで10年20年働けなかったのに「週5でちゃんと働かなきゃいけない」っていうビッグステップを目指すから、結果としてきつくなってしまう。
●山)──ついついビッグステップを目指してしまうのも、親の目や世間体を気にするという「環境」の問題なのでしょうか。
■吉)──「正社員じゃなきゃいけない」っていうのはまさに環境要因ですよね。
●山)──ひきこもりの人たちは、本来得ることが可能だったお金や地位などを早く取り戻したいからビッグステップを踏みたくなる、というような思考回路は発達障害とは関係あるんですか?
■吉)──それは誰もが思ってしまうことですが、引きこもりの期間に比例してサンクコストへの執着は大きくなると思います。
そして、これは「発達障害」に関係しているんですけど、未来に対して絶望感がある。未来に対して希望がない状態だと結果として執着する。金持ちになる確証がない人が1,000万すったら永遠に1,000万を取り返さなければ、と考えてしまうんですよ。
●山)──自分の未来に希望が持てないと、川崎の事件ですとか息子さんが殺されちゃった事件ですとか…絶望から「他を巻きこんでしまえ」と思ってしまうんですかね。
■吉)──被害者意識が大きくなってしまって、それが被害妄想になってしまう。そして、あらぬ敵をつくってしまう。「その敵をやっつけて自滅しよう」となっちゃう。
●山)──「破壊願望」がある種の希望になっちゃってるんですね…。先程の事件についてですが、一連の事件について、メディアの報道を見てこの本の内容に影響はありましたか?
■吉)──「引きこもり=危ない人」っていうイメージはついて欲しくないなと思いました。実際にそうじゃないですから。大半の人は普通に生活しているんです。
●山)──本書では7つの実例を掲載していますが、一番オーソドックスな「空気が読めない」とか「雑談ができない」といった人はどのように自己肯定感を持てばいいのでしょうか。
■吉)──まずは、外に軸足を持つということですよね。それによって心の支えができます。空気を読めるようになるための心理療法はあるんですけど、時間がかかってしまう。逆に、空気が読めない人って、環境が変わってフィットすれば、かえって強みを発揮できることもあります。
●山)──特に中高年の方だとビッグステップを踏みたくなってしまいがちなんですけど、今からでも改善することは可能なんですよね。
■吉)──そうですね。何年経ったとしても引きこもりを改善しなきゃいけないという前提に立っているのならば、何年経っても改善は可能です。20年ひきこもったから20年必要ってわけじゃなくて数カ月で十分な場合もあります。