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20代女性、雑談ができないだけで、みんなからイジメられ「仕事」を失い「ひきこもる」という悪夢

「KYな自分」と向き合い、伝える:発達障害とひきこもり克服の実例

 発達障害がもたらす特徴の一つとして「みんなとフツーの会話ができない」がある。この当たり前に思われる日常会話が「生きづらさ」となってしまったケースを今回は見ていこう。『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』の著者で、自らもアスペルガーで苦しみ、ひきこもりを克服した吉濱ツトム氏が行なっている「個人セッション」の実例から生きづらさ克服のための方法を模索していく。

◆雑談ができない、空気が読めない、女子社員から仲間はずれ
(女性28歳/ひきこもり歴4年)

 大学卒業後、ある中小企業の総務部に勤務していたAさん。入社してすぐに人間関係で問題を抱えることになりました。当初は「まだ慣れていないから」、「人見知りするタイプだから」と自分に言い聞かせていましたが、いつまでたってもうまくいかなくて空回り。同僚や先輩と何かしゃべろうとすると手や首筋にどっと汗がにじんでくる。汗をかいた自分にますます焦せる。相手の視線が怖くて目を合わせることもできなくなってしまいます。

 最も苦痛だったのはランチタイム。社員数名と外の定食屋に行くこともありましたが、たいていは女子社員同士、社内のラウンジで手作りのお弁当やベーカリーショップで買ってきたパンなどを食べるのが習慣になっていました。

 声をかけられて誘われるままに連れ立ってラウンジへ。

 しかしAさんにとっては〝休憩の時間〟と〝みんなと楽しむ食事〟ではなく、〝過緊張の時間〟〝おしゃべりをしながら強制的に食べ物を口に運ぶ時間〟でしかなかったのです。

 話題は、芸能人の噂うわさ、おいしい店、ファッション、ちょっとした社内の愚痴、ダイエット話などなど、女子社員たちの話は次から次へと話題が移っていきます。

 「っていうか、Aさんって、芸能人でいうと好きなタイプって誰?」
 と時折、話をふられても、
 「え……」とフリーズしてしまう。
 「体調悪いの?」
 「え? 別に(Aさんの頭の中では、体調悪いように見えるの? なんでそんなこと聞くの?)」
「仕事で何かあった?」
「はあ?(ないけど)」

 Aさんは質問の意図がわからず「なんで? もしかして私、何か失敗した?」とあらぬ方向へ思考が飛ぶ。
 会話の意図が読めず、リアクションのないAさんに周囲は白けた雰囲気。あっという間に違う話題へ……。

◆雑談ができない・・・次第にイジメに発展!

 Aさんは空気が読めないのですが、周囲から向けられた不愉快そうな表情は感じとれるので、落ち込む日々が続きます。

 意を決してコミュニケーションを取ろうと試みたこともあります。ですが、話の流れと何の関係もないセリフで割り込み、人の話を横取りした格好となってしまい、大ヒンシュクを買っただけになってしまいました。

 Aさんはコミュニケーションを取るのをあきらめました。これ以上、傷つきたくなかったのでしょう。昼休みはランチタイムを取らず、パソコン画面に向かいながら、ひとりでスナックやチョコレートを食べるだけ。ますます女子社員たちはAさんを敬遠するようになりました。

 隔月で行われていた部署内の飲み会があってもAさんだけには知らせない、さらに連帯責任の失敗のはずなのに、Aさんひとりが失敗したかのように仕向ける、といったイジメにも発展していきました。

 

 Aさんの態度を見かねた上司は、Aさんを呼び出しました。その上司は決して威圧的な言動をするような人物ではなかったのですが、その時のAさんにとっては、責められ、ダメ出しをされているようにしか聞こえません。女子社員たちからイジメに遭っていることも言えないままです。

「何か困ってる?」
「……(困ってるけど言ったらいけない気がする。でも言った方が? でも何を言ったらいいのだろう?)」
「構わないから言ってみて」
「……(私が何を言えばこの人は納得するんだろう?)」
「困ったなあ」

 上司から見れば、Aさんはただだんまりを決め込んだだけの人間。日々、繰り返されるこの状況に上司はついに「馬鹿にしてるのか」と激怒。

 そしてAさんは結果、自主退職を余儀なくされました。

 以後、転職を試みたAさんですが、結局、同じことの繰り返し。3つめの会社を辞めた時、ついに心が折れてひきこもってしまったのです。

KEYWORDS:

『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』
吉濱 ツトム

年齢は関係ありません。
「ひきこもり」の改善はいつからでも間に合います。今日からすぐにできるのです。

2018年内閣府の調査で40歳から64歳までの「ひきこもり」が、61万3000人。もしも彼らを支える親たちが「無職」になったら・・・今、世間で不安視されているのが、「7040(ななまるよんまる)」問題。定年退職した70代の親が40代無職の我が子の世話をし、共倒れするリスクのことである。今や、その流れは「8050(はちまるごーまる)」問題にまでスライドされた。

では、どうすればいいのか?

著者の吉濱ツトム氏は、元ひきこもりで、自らのアスペルガーを克服し立ち直った発達障害カウンセラー。2000人を超える個人セッションを行った氏は、こう語る。

そもそも、なぜ「ひきこもり」となってしまったのでしょうか。
自分がダメ人間だから? 甘えているから?
はたまた親のしつけが悪かったから?
いいえ、違います。その考えはいったん捨ててください。
ひきこもりの多くは「発達障害」と関係しています。
ひきこもり者を治療するという発想を捨て、今の「生きづらさ」を回避し、自らの「長所」でカバーする。
本書は、ひきこもりで苦しむ本人とご家族のみなさんといっしょに社会への小さな第一歩を確実に踏み出せる方法を考えわかりやすく解説します。

さあ、今すぐにはじめていきましょう。

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吉濱ツトム

よしはま つとむ

発達障害カウンセラー

発達障害カウンセラー。幼い頃より自閉症、アスベルガーとして悩み、長期間にわたる「ひきこもり」を経験。悲惨な青春時代を歩むが、自ら発達障害の知識の習得に取り組み、あらゆる改善法を研究し、実践した結果、数年で典型的な症状が半減。26 歳で社会復帰。以後、自らの体験をもとに知識と方法を体系化し、カウンセラーとなる。同じ症状に悩み人たちが口コミで相談に訪れるようになり、相談者数は 2000 人を超える。現在、個人セッションのほか、教育、医療、企業、NPO、公的機関からの相談を受けている。著書に『アスベルガーとして楽しく生きる』(星雲舎)、『隠れアスベルガーという才能』(KK ベストセラーズ)、『発達障害に人のための上手に「人付き合い」ができるようになる本』(実務教育出版)がある。

 

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