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20代女性、雑談ができないだけで、みんなからイジメられ「仕事」を失い「ひきこもる」という悪夢

「KYな自分」と向き合い、伝える:発達障害とひきこもり克服の実例

◆学生時代の趣味だった「カフェ巡り」もできず、ひきこもりへ

 そんなAさんの学生時代の話です。Aさんには古民家を改造したカフェを巡めぐるという趣味がありました。大学時代にはネットで見つけた同好会に入り、少人数ながらも趣味を語り合う仲間もいました。

 Aさんのカフェ・リポートは評判がよく、仲間と一緒にカフェに行くこともありましたから、自分がコミュニケーションの取れない人間だとはまったく自覚していませんでした。

 それはつまり「興味の対象が同じである」、「話の着地点が見えている」、それらがあったから会話が成り立っていただけで、ランチタイムの女子社員たちとのとりとめのない雑談、気にかけてくれた上司からの質問が何を求められているのかわからず、適応できなかったのです。

 典型的な発達障害です。Aさんは、ひきこもりとなってからは、唯一の趣味だったカフェ巡りもしなくなってしまいました。

◎◎ひきこもりからの脱却:吉濱セッション◎◎

◆雑談とは外国語である 

 発達障害のある方の多くが雑談が苦手です。

 ですので、それをうまくこなせないと「KY(空気読めない)」な人だと仲間はずれにされ、時には「イジメ」につながることもあります。特に学校や職場では誰もが「同調圧力」を強いる環境にさらされます。もともと共感力が低く、好きなことと嫌いなことがはっきりしている発達障害の人にとって「意味のない」雑談が続くことは耐えられないのです。要するに職場とは、仕事以前のコミュニケーションを「強いられる」場所であることを意味しています。 

 さらに、それは会社・学校ごとにそれぞれ異なった「空気」があったりします。なので、職場ごとの空気をつかむための労力は、またストレスとなりますので、どんな会社のどんな職場でも通用する方法をAさんに提示しました。

 まず「雑談とは外国語である」と認識してもらいました。

 外国語を習得する際は、その国で暮らして日常生活で覚えていく、文法を学んで言葉のしくみを学んでいくなどの方法があるのと同様です。

 Aさんにとって「雑談」とは「未知の外国語」ですが、言うまでもなく使う言語は日本語ですから、相手の言っている言葉自体は理解できる。それならば

 ①意図がわからなくても、聞くふりをしてヒアリングする
 ②しゃべらずとも「笑顔」を作る。これによって雑談への参加表明となる

 そのようにたとえて指導しました。「雑談」とは単にコミュニケーション、「雑談に参加している」という姿勢でのぞめばいいのです。

 これらをベースとして、会話をボイスレコーダーで録音します。後から聞くことによって俯瞰(メタ認知)で雑談を観察してもらうのが目的です。そうすることによって、雑談というものは基本的には本質や目的などはなく、「無意味なのだ(=着地点を求めない、真剣に聞き過ぎない)」ということを認識していきます。

続いて「オペラント学習」の強化

 オペラント学習というのは、たとえば実験で「ボタンを押す」→「エサが出る」という動作=経験を繰り返すことで、ネズミが自発的にレバーを押すようになるという行動「オペラント条件づけ」を応用したものです。

 何か発言したならば即座に褒める(自分自身でもいい)などのオペラント学習をすることによって、言葉を発することに快感を得る、そこまでいかずとも嫌悪が大幅に減るので発言しやすくなります。

 アスペルガーの人たちは、雑談を口にすることに気持ちよさを感じていない、あるいは不快と学習してしまっているから、より言葉が出にくくなっているのです。

 彼女には雑談で詰まってしまった箇所を書き出し、それに対して適切であろうと思われる返しを記載した脚本を定型発達の女性に作成してもらいました。それを一人二役で実践的な口調で読み上げた直後に、オペラントの手法を使ってもらいました。もともと覚えることは得意だったため、苦痛なトレーニングではなかったようです。

 その後、Aさんは自らの特性を把握し、再就職に挑みました。

 当初はコミュニケーションを要求されない入力作業の事務職に就こうと考えましたが、一般職にチャレンジ。自分なりの工夫を試したかったそうです。

 今の職場ではトレーニングで習得した策を実施しながら、職場の仲間にはあらかじめ自分の特性を説明し、改善したいので遠慮なく指摘してほしいと伝えたところ、数人から理解を得ることもできました。どうしても不安になってしまった時は、「何か私やっちゃいましたか?」と自分の方から聞けるようにまでなりました。そんな時は変われた自分に対して自分を褒めてあげるそうです。

 そして大好きだったカフェ巡りも再開させています。たまには立ち止まりながらでも一歩ずつ、周りとの関係を壊さずに自分の居場所を見つけ出し、社会復帰を果たしています。

(『今ひきこもりの君へおくる踏み出す勇気』より)

KEYWORDS:

『今ひきこもりの君へおくる 踏み出す勇気』
吉濱 ツトム

年齢は関係ありません。
「ひきこもり」の改善はいつからでも間に合います。今日からすぐにできるのです。

2018年内閣府の調査で40歳から64歳までの「ひきこもり」が、61万3000人。もしも彼らを支える親たちが「無職」になったら・・・今、世間で不安視されているのが、「7040(ななまるよんまる)」問題。定年退職した70代の親が40代無職の我が子の世話をし、共倒れするリスクのことである。今や、その流れは「8050(はちまるごーまる)」問題にまでスライドされた。

では、どうすればいいのか?

著者の吉濱ツトム氏は、元ひきこもりで、自らのアスペルガーを克服し立ち直った発達障害カウンセラー。2000人を超える個人セッションを行った氏は、こう語る。

そもそも、なぜ「ひきこもり」となってしまったのでしょうか。
自分がダメ人間だから? 甘えているから?
はたまた親のしつけが悪かったから?
いいえ、違います。その考えはいったん捨ててください。
ひきこもりの多くは「発達障害」と関係しています。
ひきこもり者を治療するという発想を捨て、今の「生きづらさ」を回避し、自らの「長所」でカバーする。
本書は、ひきこもりで苦しむ本人とご家族のみなさんといっしょに社会への小さな第一歩を確実に踏み出せる方法を考えわかりやすく解説します。

さあ、今すぐにはじめていきましょう。

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吉濱ツトム

よしはま つとむ

発達障害カウンセラー

発達障害カウンセラー。幼い頃より自閉症、アスベルガーとして悩み、長期間にわたる「ひきこもり」を経験。悲惨な青春時代を歩むが、自ら発達障害の知識の習得に取り組み、あらゆる改善法を研究し、実践した結果、数年で典型的な症状が半減。26 歳で社会復帰。以後、自らの体験をもとに知識と方法を体系化し、カウンセラーとなる。同じ症状に悩み人たちが口コミで相談に訪れるようになり、相談者数は 2000 人を超える。現在、個人セッションのほか、教育、医療、企業、NPO、公的機関からの相談を受けている。著書に『アスベルガーとして楽しく生きる』(星雲舎)、『隠れアスベルガーという才能』(KK ベストセラーズ)、『発達障害に人のための上手に「人付き合い」ができるようになる本』(実務教育出版)がある。

 

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