写真だけじゃない! 衣裳からセットまで使い回して経費節減の裏ワザ
【第5回】美女ジャケはかく語りき 1950年代のアメリカを象徴するヴィーナスたち
■そうだ、あのセットが残っているはずだ! アレを使おう!
久々です。
本連載は月2回(基本1日と16日)だが、こちらKKベストセラーズの新刊『実況! 会社つぶれる!!』の装丁+全ページレイアウトを担当していたため、ちょっと遅れてしまった。うわっ、こっちがつぶれる!
さて、この連載で当たり前のように「ムード・ミュージック」という言葉を使ってきたが、ふと思った。若い世代だったら、そもそも「ムード・ミュージック」というジャンルの存在を知らない人も多いかも、と。
十数年前にデザイナーとして採用した男子が、レコードを手に取ったことがなくて驚いたことがある。さらにクラブにも行ったことがないと。ぎょえー、どこで遊ぶの?
でも、考えてみればクラブにでも行かなければ、いまやレコードを見ることもほぼないし、そのクラブでもUSBをCDJにつないで、というのが主流という。
LPレコードの売り上げが伸びているとかニュースになるけれど、その存在は薄らいでいると思う。
ムード・ミュージックに話を戻すと、このジャンルの最盛期はLPレコードの最盛期と重なる。そしてジャケット・デザインが最も自由というか勝手放題だったのも、ムード・ミュージックだった。
ムード・ミュージックとは簡単にいえば「家庭で流れるエレベーター・ミュージック(BGM)」のようなものだ。
ロックがあからさまに演奏者=スターに異存していたのに対し、ムード・ミュージックの指揮者は、売れていたとしてもロック・スターのようなオーラはない。だからBGMたる音楽を映えさせるようなジャケット、さらにはジャケだけで購買意欲をソソるようなものが企画された。
たとえば冒頭に掲載した「MU CHACHAS」。なんだろう? このインパクトのある色調とポーズは! いわゆるチャチャのリズムの演奏なので、的外れなジャケではないけれど、レコード店に置かれたときの視覚的インパクトを計算しただろうことは疑いない。だいたいがこれはお洒落なのか、ダサいのか?
その境界線上で絶妙にバランスが取れた傑作ジャケットだと思う。
ジャズの美女ジャケには、こういうのは案外ない。もっと正調なのだ。ラテンだったらけっこうあるが、アメリカのメジャー・レーベルからリリースされたものでないとモデルや衣装の質が落ちるものが多い。やはりメジャー・レーベルのムード・ミュージックが美女写真の独創性では一番強い。
「MU CHACHAS」のすごいところは、ポーズキメキメのモデルたち三人三様それぞれ最高の瞬間が見事に一枚のカットに集約されていることだ。グリーンのドレスを着たコはポーズが最高。とくに脚さばきね。赤いドレスのコは表情が素晴らしい。真ん中のコは……キメすぎてちょっとヘン。そういう案配が最高なのだ。