大ブームを巻き起こした“幸福ゆき”の廃駅の聖地「幸福駅」の今… ~女子鉄ひとりたび~
鉄道ファンならずとも誰をも魅了する今はなき広尾線に残る廃駅を探訪
■爆発的な販売枚数を記録した「愛の国から幸福ゆき」きっぷ
廃線跡や廃駅の跡を見て喜ぶのは、鉄道ファンだけだと思う。その場所へ行って、これまで鉄道に興味がない友人らに、
「30年前、ここを列車が走っていたの! ほら、道路が不自然に曲がってるでしょ。すごいね、当時の名残があちこちにあって楽しいよね〜」と伝えても、飲み終わったあとのビールジョッキを見るような視線しか返ってきたことがない。
でも、ここは違う。北海道に今もそのまま残る廃駅、幸福(こうふく)駅と愛国(あいこく)駅は誰をも魅了する。この2つの駅は、今はなき広尾線にあった。
国鉄広尾線は、帯広(おびひろ)駅から十勝(とかち)平野を南下して太平洋に面した海沿いの街、広尾(ひろお)駅とを結んでいたが、1987年2月、国鉄分割民営化の直前に、廃線となっている。
この場所が一躍脚光を浴びた理由は、NHKの紀行番組だったという。幸福駅が取り上げられると、縁起のいい駅名として瞬く間に話題となった。さらに、同じ線内の愛国駅と掛け合わせた乗車券が「愛の国から幸福ゆき」きっぷとして紹介されると、大ブームとなり爆発的な販売枚数を記録。のべ数百万枚が売れた。
一般の人を巻き込んだ鉄道ブームは周期的に発生しているが、これほどの流行はもう起きないのではといわれている。廃線後、この2駅はそれぞれ、鉄道公園と交通記念館として残された。その勇姿を見に行こうか。
早朝、帯広駅バスターミナルで「愛の国から幸福へバスパック」という1日乗車券を購入。いまはバスのきっぷになっているのだ。路線バスに乗り、まずは幸福駅へ。広大な甜菜(てんさい)(砂糖大根)畑に囲まれて、鮮やかな朱色のキハ22形が2両保存されていた。改築された木造駅舎の内部は、すごいことになっている。駅舎がきっぷの服を着ているようだ。訪問した観光客が来訪記念として名刺を貼り付けたことをキッカケに、貼付することが通例となった。
公式ホームページには、ご丁寧に「ご来訪の際は、画鋲をご用意されると便利です」と書いてある。いまは売店で「幸福ゆき」という、きっぷを模したピンクのポストカードを購入し、貼るのが主流。メッセージを書いて私も足跡を残そう。駅舎の外も中も、一面ピンクでメルヘンなアートみたいだ。
ここで結婚式を挙げるカップルもいる。展示されたうちの1両は「ウエディング・メモリアル・トレイン」と名づけられ、結婚式の写真や2人の名前が刻まれたプレートが掲げられている。どの写真からも幸せオーラが出ていて、ちょっぴり羨ましい。
観光バスがひっきりなしに来て観光客が増えてきた。いちご味でピンク色をした「幸せのソフトクリーム」を片手に次の駅へ向かう。足元を野生のエゾリスが駆けて行った。バイバイ、次は誰かと一緒に来るね。
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『女子鉄ひとりたび』
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