人付き合いは苦手でも、目指すは「夢のステージ」~吹奏楽部の頂点へ~
きっとみんなならやってくれるはず―
特に、同級生の3年生が難しかった。自己主張の強い部員が多く集まったため、よく言い合いになり、雰囲気も良くなかった。誰もが不満を抱えていることは、言わなくても態度に出ていた。
そこで、部長のカゲの発案で「言いたいことを言う会」を2日間行った。大事な練習の時間を使うことに、稲生先生は理解を示してくれた。そして、みんなで泣きながら言いたいことをぶつけ合った。
部員がバラバラになってしまうのではないかという不安もあった。しかし、「言いたいことを言う会」の後、不思議と空気が良くなった。まるで、閉ざされていた窓が大きく開け放たれ、新鮮な風が吹き込んできたかのように。部員たちはお互いを受け入れられるようになり、重かった雰囲気も明るくなった。
しかし、それだけですべてが解決され、コンクールへの準備が整ったわけではなかった。次に待っていたのは、音楽的な問題だ。
明誠学院は毎年6月下旬、同じ岡山県の津山市で「グッドウィルコンサート in 津山」という演奏会を行なっており、そこでその年の自由曲を初めてお披露目するのが恒例になっていた。しかし、2019年は稲生先生が部活に顔を出せないことが多く、自由曲《海》が例年ほど仕上がらないまま本番当日を迎えてしまった。
稲生先生が指揮台に上がり、演奏が始まった。しかし、先生のエネルギッシュなタクトに対して、「ばら」のメンバーの演奏は不安げで、頼りなく、ミスも頻出した。
「どうしよ、大丈夫やろか……?」
ウノはみんなの演奏にも、自分自身の演奏にもハラハラした。挙げ句の果てには、演奏が途中で止まりそうになる場面もあった。最悪の演奏になってしまった。
津山でのコンサートが終わり、学校に帰ってきたのは午後7時過ぎだったが、部員から志願してそのまま反省会をした。
「頑張ろうや! やるしかねーじゃろ!」
みんなを鼓舞するようにカゲが言った。
ウノも「このままじゃと、やばいよ!」と声を大にして言いたかった。昨年経験した、あの「夢のステージ」に帰れなくなってしまう。
けれど、敢えて「やばい」とは言わないことにした。みんなの表情を見ていて、それぞれが「やばい」と感じていることがわかったからだ。
翌日、ウノはノートにそっと書いた。
今は人間関係や音楽がまとまっていなくても、きっとみんなならやってくれるはず―
ウノはそう信じていた。
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『新・吹部ノート 私たちの負けられない想い』
オザワ部長 (著)
「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクールをめざす、ひたむきな高校生の青春を追いかけたノンフィクション・ドキュメント第4弾。 今回、実力があるのにコンクールでは涙を飲んできた、そういう高校(吹奏楽部)を前面に押していきます。常連校のようなある意味“でき上がった"子たちではなく、実力はあるのにまだ出し切れていない、その分、どうしてもコンクールに出場したいという闘志がむきだしの熱い想い、狂おしいほどの悩み、そして大きな壁を乗り越えてゆく姿を魅せていきます。 【掲載校】 〇磐城高校(東北) 〇明誠学院高校(中国) 〇伊奈学園総合高校(関東) 〇活水高校(九州) 〇小松市立高校(北陸) 〇八王子高校(関東) 〇東海大仰星高校(関西)