「ホワイト企業」の条件を知ってますか?
社員の「健康」は職場環境の改善から
『BEST TIMES』編集部
◆「健康経営」は「戦略的投資」としての成長戦略
世間をお騒がせする「ブラック企業」については皆さんも「パワハラ・過重労働」とコンプライアンス違反のイメージでお馴染みだと思うが、では、従業員を幸福にする「ホワイト企業」とはどんなものだろうか。
またどのような条件で「ホワイト認定」されるのだろうか。
じつは経済産業省が2017年より始めた「健康経営優良認定制度」によって実体的に規定されたのである。同制度は、政府の成長戦略である「日本再興戦略」の中で国民の健康を増進する国策として位置づけられ、「地域の健康課題に即した取組や日本健康会議が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する制度」と定められている。カテゴリーは2つ。大規模法人(ホワイト500)と中小規模法人部門である。
つまり「健康経営」をしている企業や医療法人は、「ホワイト認定」のお墨付きを国からもらえるのである。
そのメリットは、従業員の生産性の向上を後押しするだけでなく、社会的イメージの向上とともに戦略的に「ホワイト企業の証拠」を看板として新規採用において優秀な人材を集めることもできるのである。また一部の保険会社の保険料割引や金融機関の融資条件の見直しも「健康経営」実践企業に有利に働くことも特筆すべきだろう。
ところでホワイト企業の「要件」とは何か、ここでは企業の多くを占める中小企業の要件を具体的に見ていこう。【図表】「健康経営優良法人2020(中小企業部門)認定基準」を参照してほしい。この15個の「評価項目」の中から7項目以上に当てはまることが「ホワイト認定」の要件だ。
会社内の制度・環境整備のコストはかかるにせよ、社会的に「優良」のイメージを獲得できるチャンスとして考えるならば、「いいね!」の評価で会社の格付も日々変化する現在、安全保証の一つとして積極的なPRにもつながる。つまり「投資」として機能するのだ。
◆健康促進する「職場環境改善」という土台
では、ホワイト企業として「健康経営」をどこから始めれば良いのか?
特に中小企業の場合、従業員をどうしても「人件費」の節約、引き算として見てしまう傾向がある。そのコストを「投資」として従業員の「健康促進」を生産性向上の足し算として見るならば、「職場環境の改善」が重要な成長戦略の土台となるのではないか。
まず「隗より始めよ!」と健康経営を実践している会社を取材した。
耐震補強を中心とした構造物メンテナンスを行っている「株式会社キーマン」である。同社の代表取締役副社長の片山寿夫氏(【写真①】)によると、同社は健康の観点から「病気0次予防=ゼロ宣言」の健康オフィスを提唱し、リノベーション事業も始めたという。
「もともと食の改善から社員の健康問題を考え始めたんです。社内に社員食堂を作って社員の健康を守ろうと。でも次第に健康というのは環境にあるのではないかと。そんな時に『医師が進める本物の健康住宅』という雑誌と出会い、そのゼロ宣言という病気予防の概念を研究していくにつれて建物、オフィス内の環境改善こそ社員の健康を守れると確信したんです。また健康経営ということが国策的な成長戦略として採用されていることも重要な点でした」(片山氏)
そして、片山氏によれば、自分たちの会社の職場環境を健康的に変えることから着手したのだという。
同社のオフィスに入ってびっくりした。
全面的に「天然無垢の木材」を使った床。柔らかな光と真っ白な漆喰の壁。どれも「自然」を意識した素材で室内は清潔感と落ち着きの雰囲気を醸し出している。まるで会社というよりも図書館のような温もりが感じられる(【写真②】参照)。
「こちらを、見てください」と同社の片山氏がいきなり見せてくれたのが、天然木材と合板材の比較実験(【写真③】参照)である。
「同じ時期にちょうど1年弱ぐらいお水につけて、左の合板素材の方が茶色が濃いですよね。不純物が入っている証拠です。ただ透明な水につけただけなんですけど、これだけボンドとか、塗料とかが詰まっているんですよ。これがVOC(揮発性有機化合物)として人体に悪い影響を与えるんです。逆に右の天然木はほぼ透明です。体にどっちがいいかは一目瞭然ですよね」(片山氏)
VOCといえば、2010年7月に出来た衆議院・参議院の新議員会館で新建材などに含まれる化学物質が発する有毒ガスで、議員が体調を崩した「シックハウス(病気の家)症候群」のニュースが思い出される。その症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹などである。建物の高気密化、高断熱化によるシックハウス症候群は社会問題化している。
特に新築建て替えの会社(ビル)などは室内空気汚染で「知らぬ間に」従業員の健康を害している可能性もあるだろう。すなわち、「パワハラ、過重労働」だけでなく「健康被害の温床」となりかねないブラック問題として職場環境の改善も経営者は求められるのだ。これは先述した前出【図表】の「健康経営優良法人」認定基準「大項目3:制度・施策実行」の前提条件だとも言えるのではないだろうか。
「健康経営とは、社員の健康をどう守るかだと思うんです。そのためには職場環境が大事だと。それが結果的に働き方、企業の成長性のところで変わって来ると思うんです。働き方改革が先にあるわけじゃないですよね。具体的に経営者が社員に対して健康的で持続的=働きやすい職場環境改善が本当に必要になると考えています」(片山氏)
同社は、天然無垢の床材の他に「結露によるカビ・ダニ対策としてのスペイン漆喰の壁の提唱」や「LEDなどの電磁波障害に対し、脳波の改善で集中力・記憶力を高めるテラヘルツ加工された分電盤の設置」を行い実践している。
同社の社員からも現在の職場環境について「天然木はオフィス内に流れる空気も快適で、底冷えもしないので木のぬくもりがあって快適に仕事ができる」との声が聞かれた【写真④参照】。
「人生100年時代」の働き方に最適化された健康オフィス。企業の持続的発展と成長を担うのはやはり「人=社員」の働きに左右される。「ホワイトな企業で健康で安全な職場が環境が保障」された上で社員たちが思う存分「やる気」を出せるかにかかってるとも言えるのだ。社員のモチベーションを高める「職場の環境改善」はこれからの企業にとっても、喫緊の課題と考えても間違いないだろう。