配置された小物が語る、エロでセンチでエモくてムーディーなストーリー
【第11回】美女ジャケはかく語りき 1950年代のアメリカを象徴するヴィーナスたち
■男ものの小物に思いを馳せるマンスフィールド・セクシャリティ
同じくエキゾ・ミュージックの傑作ジャケにザ・プレイヤーズの「PEARLS OF LOVE」がある。この連載第4回で、ジャケの写真合成に使われたさまざまなものが、みんな「女性器のメタファー」だった、という論を書いたが、こちらはそのとき掲載すべきものだった。
ボッティチェッリの名画「ヴィーナス誕生」が貝殻に乗るヴィーナスを描いたように、こちらでは、半裸の美女の前に大きな真珠貝が! この真珠貝を女性器のメタファーだと想像できないなら、その想像力の欠如を恥じるしかないでしょう。
それにしても美女が腕に巻いたパールから大きな真珠貝まで、パールづくし。パール・フェチというジャンルがあるか知らないが、筆者は無類のパール好きだ。
エレガントに装った女性のパールのアクセサリーは大好きだが、エロな下着のパールのTバックも好きだ。脳髄を突くようなエロ。なんでパールがそこまでエロくなるのか、どうにも分析しきれない。まあ、こういうことの細部はもっとエロオヤジに任せておけばいいだろう。一応、これでも筆者は耽美派だ。
と、南洋系アルバムの小道具話が続いたが、最後に我らが巨乳アイドル、ジェーン・マンスフィールドに登場願おう。といっても筆者は巨乳にまったく興味なく、「ロココ」風の小ぶりの乳房が好きなのだが、マンスフィールドは存在そのものに興味を持ってきた。
彼女はその見事な肢体と巨乳の胸元を品なくパパラッチに見せつけることで、ハリウッドの大スターとなった。おバカそうに見えるが、公表されたIQは163というかなり高い数値。しかも5カ国語を話し、ピアノとヴァイオリンは相当な腕前だった。
でも、彼女はハリウッドで蓮っ葉なお色気スターの座を得ることを選んだ。そして交通事故で1967年に34歳で亡くなる。
減速した大型トレーラーの下部に、後続した彼女の乗るビュイック・エクストラがのめり込んだ。挟まれてマンスフィールドの頭部は切断され、道路に転がったと噂が広まったがこれは事実ではない。
ともあれ、稀代のセックス・シンボルはあえなく亡くなってしまった。この連載はなるべく軽くちょっとエロで楽しいことばかり書くようにしているけれど、たまにはこういう話があってもいいだろう。
ケネス・アンガーの名著『ハリウッド・バビロン』みたいな内幕話があっても。
ところで、マンスフィールドの着衣の写真を使った「Moments to Remember」は、着衣派にとってはたまらない一枚だ。セクシュアルなのは、ドレスの胸元が大きく開いていることくらいだろう。あとはせいぜいマンスフィールドの思わしげな表情か。
しかもすごい美人というわけでもエロ顔というわけでもない。でも、マンスフィールド顔なのだ。そして周りに散らばる小物。
パイプ、灰皿、男性用の靴……では、男はどこにいるのか? シャワーでも浴びているのか? それともタイトルのように思い出の品々ということか?
ともあれ、そこに並べられた小物がすべて男性用のものであり、マンスフィールドが、何かを記録するかのようにペンを持っているだけで、これは充分に愛の、さらにはセックスの物語が秘められていて、そんな女心を想像するだけでも、ちょっと切ない気分にもなってくる。
マンスフィールドのセクシュアリティ、そして思い出、もしくは記憶を辿るセンティメンタリズム。スタジオに置かれたちょっとした小物とモデルがこれだけの情感を見る側に浮かび上がらせる。
まさに傑作ジャケットという他ない。そして見る側の想像力をいかようにもはばたかせる撮影用の「小物」の重要性を、このアルバムは見事に示しているのである。