正常な皮膚が1ミリもない難病「魚鱗癬」に痛む我が子、若き母はただ「なぜ私を母親に選んだの!」と自分を責めるしかなかった
難病を持つ我が子を愛する苦悩と歓び(12)
◆「子どもは親を選んで産まれてくる」・・・選ばれたくなかった
初めて病室にきたときに、渡された名刺には「心理カウンセラー」と書かれていた・・・。
私はそこまで、精神的に弱っているの?
周囲からはそういう姿にみえるの?
・・・そりゃそうか、と自己解決。
そして、なんとなく耳を傾けていると、有名なあの言葉が聞こえた。
「子どもは親を選んで産まれてくる」と。
でも、この時の私には、この言葉は逆効果でしかなかった。
私を選んでしまったばっかりに、陽はこの病気になってしまったのか。
どうしてこんな私を選んだのか。
選ばれたくなかった。
そう、育てられる自信がなく、現実を受け入れられず、母親としての自覚、覚悟、なんて微塵もないまま、
次の日も、次の日も、面会の時間に会いに行った。
でも自分から陽に会いにいくことは、一度もなかった。
ただ面会の時間、だから行く。ただ近くで、見つめる。
そして私自身の退院が明日と近づいた時、担当の先生が目を見開いて教えてくれた。
「陽くん、口でミルクを飲めましたよ!!」
固い皮膚に引っ張られて、開いていた口で、器用にミルクを飲んだのだ。
鼻のチューブからではなく、哺乳瓶で私の母乳を飲んだのだ。
陽は生きようと頑張っていた。
口でミルクを飲むなんて、当たり前のことなのに、周りのみんなが喜んだ。
そして気付いた。
陽の担当の先生方や看護士さんは、
「陽ちゃん、ミルク飲めてえらいね」
「陽ちゃん、起きたのかな〜」
「陽ちゃん、おしっこは〜」
「陽ちゃん」「陽ちゃん」「陽ちゃん」と、たくさん名前を呼んでいた。
語りかけていた。
微笑みかけていた。
誉めていた。
たくさん、応援してくれた。
なのに、私はまだ呼べていない。
陽、頑張っているんだね。
生きようと、踏ん張っているんだね。
ミルクも口で飲めたんだね。
すごい!! えらいね。
そう言おうと、声を絞り出した。
しかし私が発することができた言葉は、
「・・・よう(陽)・・・」だけだった。
そして私は退院をむかえた。
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KEYWORDS:
産まれてすぐピエロと呼ばれた息子
ピエロの母
本書で届けるのは「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」という、
50~100万人に1人の難病に立ち向かう、
親と子のありえないような本当の話です。
「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」
このような気持ちから母親は、
息子の陽(よう)君が生後6カ月の頃から慣れないブログを始め、
彼が2歳になった今、ブログの内容を一冊にまとめました。
陽君を実際に担当した主治医の証言や、
皮膚科の専門医による「魚鱗癬」についての解説も収録されています。
また出版にあたって、推薦文を乙武洋匡氏など、
障害を持つ方の著名人に執筆してもらいました。
障害の子供を持つ多くのご両親を励ます愛情の詰まった1冊です。
涙を誘う文体が感動を誘います。
ぜひ読んでください。