なぜ会社で一所懸命働いても、経済的成功につながらないのか【令和の億り人が静かに教える】「資本主義」のしくみ②
◆皆さんが生きる社会とは?
皆さんは、今皆さんが生きている日本社会をどんな社会だと思いますか。民主主義社会? ロシアや北朝鮮も自分たちの社会こそ民主主義だと言っています。自由主義社会? 本当に皆さんは自由ですか。多くの人々が、朝から夜まで会社に拘束されています。毎日満員電車に揺られて通勤し、嫌な上司の意向を忖度し、給料に不足を感じ、失業に怯えています。それが本当に自由? 古代ローマの奴隷は、日本のサラリーマン程度には自由で大切にされていたそうです。
答えを言いましょう。1991年のソ連邦崩壊以降に生まれた今の若い人たちには馴染みの薄い言葉になってしまっているようですが、我々の日本社会は「資本主義社会」です。かつてソ連や東欧の共産主義体制の国々に対して、日本やアメリカ、西欧諸国、韓国、台湾などの国々は「資本主義」陣営と呼ばれていました。では「資本主義」とはどういう意味でしょう? 若い方々に聞くと、「お金第一」「拝金主義」という意味と理解している人が多いようですが違います。試しにWikipediaを引いてみるとこう書いてあります。
または資本制は、営利目的の個人的所有者によって商業や産業が制御されている、経済的・政治的システム(Wikipediaより)
ポイントは、「制御」という言葉。人間の社会というものは、自由だけでは成立しません。何らかの「制御」が必要です。封建主義時代以前はそれが、「王様」や「宗教指導者」「領主」による制御でした。資本主義社会では、「営利目的の個人的所有者」、つまり「資本家」が世の中を制御するのです。
例えばあなたが、「火星」に行きたいと思うとします。どうしますか? あなたは、資金を出してくれる資本家を説得しなければなりません。かつてコロンブスがスペイン女王を説得したように。「癌を直す薬を開発したい」「ホームレスの人々を救いたい」どれも同じです。あなたには決める権限はありません。資本家が決めるのです。そしてもし、火星に行くなり、癌を直す薬を開発するなどの事業が成功した場合、その利益はどうなるでしょう? すべて資金を出した資本家のものです。複数の資本家が資金を出し合って場合は、各自が出した資金の割合通り、つまり持ち株数に応じて利益が分配されます。どれだけあなたが一所懸命頑張ったとしても、あなたは決められた給料をもらうだけです。いくばくかのボーナスと名誉は得られるかもしれません。でもダマされないで。利益は資本家の総取りなのです。それが資本主義のルールです。
◆利益は「株主のもの」というシンプルなルール
私はこのルールを、2006年から2019年まで経営者として滞在した台湾で学びました。渡台前から頭では知っていたことではありました。しかし体験して初めて、その意味を理解したのです。それは2011年のことでした。私が台湾に渡ってから4年目を迎えていました。会社は3年がかりで何とか組織を固めることができ、成長が軌道に乗り出した時期でした。店舗数がちょうど10店を超え、年商も10億円程度に成長し、将来の株式上場を念頭に、専門的な相談ができる会計事務所に顧問を引き受けていただいて初めての決算を迎えていました。決算に関する最初の会議で、会計士のN先生から思いも寄らぬ指摘を受けたのです。
「鈴木さん、なぜ株主に配当を出さないのですか?」
当時私は、財務や経営企画を担当する管理部門と、店舗営業を担当する営業部門双方を担当しておりました。しかし恥ずかしながら、私の頭には配当など思い浮かんだこともありませんでした。まだまだ小さなベンチャー企業ですから、利益は全て新しい店舗の出店につぎ込むのが当然と考えていたのです。それに当時は株主も社内の人間しかいません。そもそも財務の責任者としては、既に決まっている来年の出店計画を考えると、とても配当など出す資金の余裕はありません。先生はそれを見透かしてこう言いました。
「鈴木さん、ここは日本ではありません。台湾では、いくら利益を計上していても、配当を出さない会社の株なんか、誰も買ってくれません。もし本気であなた方が上場を目指すというのなら、今から少しずつでも配当を出しなさい。そして毎年その金額を増やしなさい。上場した時、台湾人の株主はその実績を見て初めてあなたたちの会社の株を買ってくれるのです」
「配当性向」という言葉があります【注1参照】。企業が一年間の活動で得た利益のうち、どれだけを株主への配当に回すのか、その比率を表したものです。
日本の上場企業の平均配当性向は、毎年30%程度です。それに比べて台湾のそれは実に70%【注2参照】 なんと利益の70%を株主に支払ってしまうのです。
https://www.tpex.org.tw/web/about/introduction/feature.php?l=ja-jp
「こんなに配当してしまっては、新規の投資が出来ないじゃないですか!」と会計士の先生に訴えると、「そうです。資金が足りないなら、銀行から融資を引っぱってくるか、株主が追加出資してくれるように説得するのです。それが経営者の仕事です。それが台湾のやり方です」
毎年の年度末ごとに、経営者は株主から会社を預かっている者として、経営手腕をチェックされ、より高い配当を求められます。
「どうか長期的な観点から会社の成長を見守ってください」こんな日本的な言い訳は通用しないのです。
台湾のやり方が必ずしも正しいとは思いません。日本のやり方にも良いところはあると思います。しかし人口わずか2,300万人、わずか15か国としか国交を持たない小国台湾が、世界に冠たる電子立国としての地位を築くことができたのは、資本主義のルールを厳密に追及することで少ない資源を最大限に活用してきたからではないかと私は考えます。
◆「労働者」か「資本家」か、皆さんはどう生きるか
よくも悪くも、これが資本主義のルールです。利益は株主の総取りなのです。資本主義社会には二種類の人間しかいません。
お金に働かせて収入を得る資本家
経済的な成功を本気で目指すのならば、お金に縛られない人生を目指すのであれば、答えは決まっています。自らが起業する、もしくは起業直後の会社に参画して株をもらい、自らもビジネスオーナーとなるか、もしくはサラリーマンとして働きながらも貯金をして投資ををはじめるか。本質的にはどれも同じです。「資本家」になるということです。
前回の記事で私が台湾に渡り、友人が創った会社に入社する経緯を書きました。最初の給料は約20万円。とても少なく感じました。でも文句は言いませんでした。なぜなら私は敢えて給料の交渉はしなかったのです。創業者の友人にはこう言いました。
「給料はいくらでも良い。夫婦二人で生活できる金額であれば文句は言わない。その代わり少しでも良いから会社の株式が欲しい」と。
友人は、私に期待してくれていたのでしょう。その要求に応えてくれました。私はその期待に応えるように、全力で働きました。
人生には幾つかの重要な分かれ道があります。あのときがまさにそうでした。(つづく)