総選挙を前に考える「18歳選挙権」の現在
第98回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-
18歳選挙権を実現する改正公職選挙法が施行されてから早5年…。本年11月に行われるであろう総選挙を前に、当事者たちの関心や理解などはどうなっているのだろうか。
■15.2%が「知らなかった」投票権
自民党の総裁選が9月29日に行われた。岸田文雄氏が新総裁に決まり、10月4日招集の臨時国会で第100代首相に指名される。これで政治日程も一段落かと思いきや、岸田内閣の発足は総選挙が実質的にスタートしたことを意味してもいる。その選挙においては、学校現場も無関係ではいられない。
18歳選挙権を実現する改正公職選挙法が施行されたのは、2016年6月19日のことだった。この日から、18歳の高校生も公職選挙で投票することができるようになったのだ。
それまで選挙権は20歳からだったので、高校生は無関係だった。高校生が現実の政治について考える必要はなかったし、学校も教えようとはしなかった。むしろ、学校としては高校生が政治に関心を持つことを嫌っていた、と言ったほうがいいかもしれない。
自民党総裁選が終わった翌日の30日、日本財団(笹川陽平会長)が「国政選挙」をテーマとする18歳意識調査(以下、調査)の結果を公表した。全国の17歳から19歳の男女それぞれ458人、合計916人からの回答を得ての結果である。
調査の「2021年に実施される衆議院議員選挙について、自分も投票できること、又は投票日によっては投票できることを知っていましたか」との質問に、全体の66.2%が「知っていた」と答えている。調査時点で17歳であっても、投票日には18歳の誕生日を迎える者もいるはずなので「投票日によっては投票できる」としている。
この66.2%を、どのように受け止めればいいのだろうか。18歳選挙権が実現してから5年が過ぎているのだが、18歳になって自分に投票権があることを知っていたのは66.2%である。十分に認知されている、と言っていいのだろうか。
調査では、15.2%が「知らなかった」と答え、18.7%が「そもそも選挙があることを知らなかった」と答えている。政治への無関心さが伝わってこないだろうか。
では、「知っている」と答えた66.2%が政治に関心があるかといえば、そうとも言えないようだ。
2021年の衆院選で投票するかどうかも調査では訊いているのだが、「投票する」との答えは28.8%でしかない。「たぶん投票する」との答えも26.4%あり、両方を足した55.2%が「投票を予定している」との見方もあるようだ。しかし「たぶん投票する」は、当日になると「投票しない」に流れる可能性を強く感じてしまうのは疑り深すぎるだろうか。
さらに調査は、「政治や選挙に関する授業を受けたか」を訊いている。それに対して「高校で受けた」との回答は、58.2%となっている。
18歳選挙権が実現して高校生でも、選挙で投票する権利を手にした。投票するためには政治や選挙についての知識が必要だが、その授業を受けたのは58.2%でしかないということである。残りの41.8%は、高校で政治や選挙について学んでいないと答えたことになる。
18歳選挙権が実現しなかったとしても、高校の普通科には「政治経済」の科目があるのだから、政治や選挙についての授業があってもおかしくないはずである。
むしろ、多くの高校で授業をしていなくては、おかしなことになる。しかし多くの17歳から19歳の男女が、「高校では政治や選挙についての授業を受けていない」と回答していることになる。
■18歳の主権者意識は高まるか
理由を想像することは難しいことでもない。高校で政治経済の授業があっても、それはいま現在の政治経済についての授業とは限らないからだ。
たとえば今回の自民党総裁選について、どれくらいの高校が授業で取り上げたのだろうか。現首相である菅義偉氏が、なぜ自民党総裁選に立候補しなかったのかを授業のテーマにした高校は、ほぼ無いだろう。森友学園問題は首相および財務省による汚職が疑われた事件であり、いまの政治にとっても大きな問題なはずだが、これを授業で取り上げた高校があったとは寡聞にして聞いたことがない。
日本の高校では、いま起きている政治について授業で取り上げることをしない。授業で取り扱わないのだから、生徒が話題にもしないし、関心をもたないのも無理はない。
18歳選挙が実現したとき、校内で政治的な集まりを生徒がもつことに神経を尖らせた高校は少なくなかった。生徒が政治的な活動をすることを、多くの高校が禁止した。
つまり、生徒が現実と向き合うことを禁じたのだ。その姿勢は、現在でも変わっていないのかもしれない。
自民党総裁選が終わり、総選挙が近づいてきた今月になって、「模擬投票」なる授業を実施する高校が出はじめている。そのひとつのある高校では、模擬投票を行う理由を「主権者意識を高めるため」と説明している。この高校では、毎年、授業の一環として模擬投票を行ってもいるそうだ。
模擬投票は、架空の選挙を行い、それによって投票の仕方を学ぶというものだ。それによって、「選挙に行こう」と呼びかけているわけである。それが、主権者意識を高めることなのだという。
模擬投票で投票の仕方を学ばなければ、投票はできないのだろうか。そんな難しい手続きなのだろうか。投票している年配者たちは、模擬投票を学校でやって育ってきたから投票できるのだろうか。
学ばなければできないような難しい投票方法なら、そこを改めるのが先決かもしれない。難しい仕組みが投票を妨げているのなら、すぐに変えなければならない。しかし、そんな議論など、まったくされていない。
先の調査では2021年衆院選で「投票する」との答えは28.8%、「たぶん投票する」との答えが26.4%、両方で55.2%だった。投票しないとの回答が44.8%と、半数近くあったことになる。
模擬投票を繰り返せば、この44.8%はゼロになるのだろうか。ゼロになるのなら、どんどん模擬投票をやってほしい。年に1度といわず、毎週でも、毎日でもやってほしい。それで投票率が100%になれば、それはそれで世界に誇れることかもしれない。
しかし、そんなことで投票率が上がらないのは、学校現場がいちばんよく知っているはずでもある。それでも模擬投票くらいしかできないのは、生徒に現実の政治について考えさせ、意見を述べさせ、議論させたくないからだ。
その結果、政治に無関心な、選挙で投票に行かない18歳を生んでいる。学校と教員は、そのことを真剣に考えてみる必要があるのではないだろうか。