Scene.6 本屋はホット&クール。
高円寺文庫センター物語⑥
業界紙『新文化』の編集長は、「元気な実験店としても面白いので、ずっと見させて貰うね」、と言ってくれた。
長きにわたって読み続けている業界紙だが、歴代の編集長の中で彼ほど本屋とそこに働く書店員を気にかけてくれ記事にした編集長はいないと思う。
土日祭日は、観光地化する高円寺。裏高円寺と言われだした頃で、路地裏にも古着屋やカフェができ始めて若者客をさらに集めていた。
休日明けは、観光客たちも買って行ってくれた人気商品が品薄になっている。
「りえ蔵、今日はつるちゃんと蔵前に仕入に行ってよ」
「『ねじ式トコトコ人形』に『ねこぢるトコトコ人形』と『妖怪花あそび』の補充ですね」
「多くなってごめん。ほかに面白そうなグッズも探してきてな」
それらすべてが高円寺的にウケのよい、マンガ関連グッズだと仕入れて販売を始めたら、売れる売れる。
「ねじ式トコトコ人形」は、ゼンマイを巻いたら足だけ動いて進むという単純な玩具だが、中央線的に絶大な人気の漫画家つげ義春の代表作『ねじ式』グッズ。一度の仕入で三箱は買ってこないと補充が間に合わないヒット商品となっていた。
本屋は扱う商品が書籍・雑誌と紙モノなので、普通はレジまわりになどに火モノ水モノは扱わない。とにかく文庫センターは、普通の本屋の逆を狙っていた。
「こけしマッチ」という、マッチの持ち込みがあった。マッチの軸先に顔を描いて「こけしです」という代物だが、150円で衝動買いのヒット商品になった。
「ねじ式トコトコ人形」に「妖怪花あそび」は、よっぽど売れたのだろう。発売元が、色違いバージョンを次々と出してきたのには驚かされた。
初めて来た出版社の営業さんの言葉が忘れられない。
「噂にたがわぬ異端ですね」
「そうですか。こんな小さな街角本屋が生き残るには、異端にこそチャンスがあると思っているんですよ。
資本がないからと、なにもしないより資本がないなりにやってみるしかないですもん。
ほかと同じような本屋をしていたら無理、なら異端でやってみるまでです。」
「店長、ヤバいっす! 期待の『完全自殺マニュアル』発売できないかもらしいっすよ」
「ゲゲゲ、マジか! だったら、太田出版に直接持って来てもらうしかないな」
太田出版は、文庫センターの個性化になくてはならない出版社。この『完全自殺マニュアル』は、この本を読んだことによる自殺が相次いだと言われて問題になった。
だからといって、本屋が自主規制して販売自粛はいいと思わない。ボクらのスタンスは、賛否の意見あるお客様に、その本を提供することだと思う。
さらに後年のことになるが、太田出版の『クイック・ジャパン』シリーズはサブカルチャーを代表するものとして、文庫センターの鉄板定番商品となっていった。それぞれが、MAXで各冊300部以上は売れたと思う。25坪の店で300部は凄いのだ!
太田出版の営業さんは、4代もの代替わりがあっても文庫センターのケアを忘れていない。日本一早く『クイック・ジャパン』が入荷する店として直接納品でリスペクトしてくれた。
新刊納品の翌日は、営業さんがレジに張り付いて売れ行き調査に当たっている。アンテナ店だからって、感心した! 本は売れていく、ではなしに売ってくんだよなぁ~長さん!