Scene.6 本屋はホット&クール。
高円寺文庫センター物語⑥
「つげ義春リトグラフ」が、売れた!
6・7点をショーウィンドーで展示販売。大きなモノで6万円はしたかな、小さな「岩瀬湯本温泉」でも18,000円。つげさんが大好きだから、背伸びしてコレを買ってしまった。
オリンピックの斜向かいにある画材屋さんにお願いして、いい塩梅に額装して貰った。好き放題な企画はテンション上がるし、商売になるんだから最高だな!
意外と売れたな、と思っていたら多くは古本屋が買い込んで行ったようだった。投機的な「商品」として扱われたのは、ファンとしては忸怩たるものがあったけど、店長としては売り上げ増になればよいと思うしかない。
10円を拾う商売をしている本屋に、万単位の商品は貴重! 本屋の魂のうち、酔狂な部分の少しは酒で眠らせないと!
というわけで、今夜も焼き鳥「大将」。内山くんとりえ蔵で、軽く呑むつもりが「そろそろ本格的にイベント、企画してみようか」
やいのやいのと談論風発、本屋のことは仕事と考えてないから話題はイベントで盛り上がる。
「店長、それよかTHE KINKS のコンサートあるのを知っとると」
「よかねぇ~、みんなで一緒に行くっちゃね」
その瞬間、右手の箸が浮いた! あぁ、四十肩・・・
「店長、綾ちゃんから電話ですよ」
「どしたの?」っと、出たら電話の向こうで泣きべそかいて「今日はバイト行けない」
「おいおい、ちょっと駅前の珈琲貴族に来れるか」
バイトの中でも存在は癒し度抜群の、小さくてややぽちゃな見習いナース。まだまだ子供なのか、メンタルが弱いのか、婦長の指導に凹むと泣きべそ電話をかけてくる。
なんとなく馴染の喫茶店は使いたくなくて、滅多に行かない駅前の「珈琲貴族」で話を聞いてあげることにした。
ボクには娘がいないから、内心こんなの嬉しかったかも(笑)。
泣きべそにも耳を傾ければ、婦長のいじめとも指導とも感じられる話だ・・・。
「しばらくは、病院も本屋のバイトも休んで引きこもりたいって気持ちもわかるよ。
でもさ、綾ちゃん。ボクら本屋はさ、本を介してお客さんに楽しく愉快な気持ちになって貰えたらって思うんだよな。
ナースは、生き死にに関わっている現場でさ。それでも笑顔で接して、患者さんの面倒をみて癒したり楽しい気分にさせるとっても大事な仕事なんじゃないの。
極端に言えばさ、本なんて自由に読めない悲しい存在の時代だってあったんだよ。ひとが生まれて死んでゆく、どんな時代でもナースは不可欠っていう大事な職業じゃないか。
そういうことで泣く子じゃなくてさ、自分で考えて決心できる子になって欲しいな」
こんこんと話して聞かせていたら、やっと綾ちゃんに少し笑顔が戻ってきた。よかったっ、と顔を上げたら喫茶店の空気が変!
おじさんが若い娘を泣かしてる、雰囲気になっていたのか・・・あ、高円寺にはアダルトビデオの製作会社があるし!
「わ! 逆走!」
「店長! クルマ反対よ!」
「ぎゃ! 怖い~!」
「ゲゲゲゲゲゲ・・・・」