Scene.13 心地よい風が吹いている。
高円寺文庫センター物語⑬
「店長、リリーさんのお迎えに行くばい。リリーさんも九州やから、変な九州弁は使わんといて」
「内山くんのが、伝染るんです」
「吉田戦車ね。ギャグもやめとってね!」
リリー・フランキーさんは福岡の出身と、佐世保出身の内山くんは思い入れが深いようで今日はめっちゃ真剣なのが笑えるぜ!
リリーさんが『東京タワー』で大ブレイクするのは、まだまだ先の話。
この頃は、雑誌『ぴあ』に『あっぱれB級シネマ』を連載中だったのと『女子の生きざま』『誰も知らない名言集』が立て続けに出版されて、ライターとして注目されてきた時期だった。
そんな時に、河出書房新社から『美女と野球』の新刊。前2作が文庫センターではロングセラーになっていたのだから、サイン会にはドンピシャリ!
ところがまぁ、文庫センターのサイン会に来てくれる方々は皆さんがイラストまで丁寧に描いてくれるから例によって、リリーさんもサインに時間がかかる。
店でのサイン会から、トークショーは場所を中央線高架下の高円寺社会教育会館に移して18時半からなので気が気ではない・・・。
遅刻魔だというリリーさん。やはりイベント会場にはちょっと遅れたばかりか、独りトークは寂しいのかとお仲間のBJさんとやって来た。
手にはワインを抱えている・・・・
「店長、みんなにワインを楽しんでもらいながらのトークでいいよね」
大量の紙コップまで持っていりゃ、ダメだなんて言えないでしょ。飲酒トークショーの始まりになっちゃった!
下ネタトークもありの大爆笑トークショー。居酒屋での打ち上げにまで続き、お客さんまで誘っての大盛り上がり!
リリーさん、下座に座るもんだから配ぜん係のようでも厭わぬ振る舞いは優しい人格が垣間見えた。
お開き後の二次会に、内山くんは連れ出したそうで・・・リリーさん、なにが気に入ったのかねぇ?
まだまだリリーさんとの物語は続く。
「さわっちょ、お疲れさん。今日もオービスさんに寄ってビデオ、借りて帰るの?」
「はい、店長が話してくれた『華氏451』があったら借ります。また、吉祥寺でユザワヤに寄りましょうか?」
「ユザワヤ、ケケケ・・・妖怪舎さんのフィギュア、新作あったら買ってきて」
なにしろ大好きな『ゲゲゲの鬼太郎』グッズには目がなくて、ユザワヤなら安く手に入る。
「『華氏451』は覚えていたか?!」
さわっちょは、内山くんやりえ蔵たちの強烈な個性。吼えるヴォーカル、うなるギター、爆裂なドラムに囲まれて静かにベースを刻んでいるようだった。しっかり、ほかの音を受け止めて取り入れていたんだろうな。ジョージ・ハリスンか?!
「『華氏451』の話は忘れないですよ。
本が禁止された世界で、ひとが一人一人一冊の本になりきって暗記していく姿って素晴らしいというか、怖いというか、感動もんです。
自由に本が読める世界って、かけがいがないんだなって思いました。」
仕事中でも、ボクが読み耽ってしまった本に出合うと熱く語ってしまう悪い癖があるが、しっかりと聞いてくれていたなんて嬉しいもんだ。
「さわっちょだって一冊の本なんだぜ。
りえ蔵本や、内山本って連中は面白い本を書きつつあるけどさ。さわっちょの真っ白い本には、これからまだまだたくさんの書き込みができるんだからね。」
「はい、店長。文庫センターのバイトになれてよかったと思います。」
「SF小説ってさ、荒唐無稽でファンタジーに思われがちだけどな。人間の存在を考えさせてもくれる、哲学的な読み物でもあるんだよ。
先々のことは不自然じゃない、過去とパラレルなのさ、てな感じで読み解くといいよ。」