労働者を使い尽くす「ブラック企業」はなぜなくならないのか【宮台真司】
「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第2回〉
■終身雇用の正社員という制度を廃止せよ
とはいえ、先に申し上げた通り、終身雇用を約束されない非正規労働者にとって、会社が嫌がる組合結成はリスキーです。他方、正規労働者には、昨今のように非正規雇用だらけの状況では、非正規に落とされたくなければ無理して働けという圧力が働きがちです。
こうした障害が生じるのは終身雇用制があるからです。第一に、正規と非正規の別なく同一内容同一賃金化を進めた上で、第二に、企業の都合でお金でカタをつけて解雇できるようにすることが大切になります。終身雇用を廃止し、国際標準化するのですね。
右肩上がりの時代がとっくに終わった日本では、終身雇用制は有害か、少なくとも役割を終えています。第一に、非正規労働者が増大する状況では、正規労働者は非正規労働者からのアガリを搾取しています。それで左翼系労組を名乗るのは、万死に値する恥晒(はじさら)しでしょう。
第二に、右肩下がりの時代なのに正規労働者を解雇できないので、労働調整のためにサービス残業をさせるしかなくなります。さもなければ、業績不振で賃金カット、挙げ句は倒産となります。正規労働者も倒産と非正規化が恐くてサービス残業せざるをえません。
終身雇用の正社員と、会社が契約更新を拒絶できる非正規労働者の区別がある現状を前提にすれば、団結権・団体交渉権・団体行動権の三権を有効利用する労働組合への加入が必要で、非正規労働者も弁護士がついたユニオンに個人で加入することが重要になります。
しかし、そもそもこの前提がおかしいのです。おかしい理由は今述べました。だから、これまで繰り返し「まず同一労働同一賃金化から出発し、やがて全職種・全組織で終身雇用制を同時に撤廃せよ」と申し上げてきました。これに対する理屈の通った反論は皆無です。
文:宮台真司
(※書籍『社会という荒野を生きる。』から抜粋連載。つづく…)
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CONTENTS
はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か
第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか
——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観
◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと
◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは
◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは
◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ
◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは
第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは
———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪
◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか
◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは
◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは
◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!?
◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか
◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について
◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは
第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか
———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ
◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか
◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは
◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか
◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは
◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは
◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か
第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために
———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか
◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか
◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか
◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか
◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか
◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか
◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか
◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか
以上「目次」より