「仕事よりプライベート優先」の会社員が増えたのはなぜか〈後編〉【宮台真司】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「仕事よりプライベート優先」の会社員が増えたのはなぜか〈後編〉【宮台真司】

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第4回〉

 


 社会学者・宮台真司が、旬のニュースや事件にフォーカスし、この社会の〝問題の本質〟を解き明かした名著『社会という荒野を生きる。』がロングセラーだ。天皇と安倍元総理、議会制民主主義、ブラック企業問題、感情の劣化とAI、性愛不全のカップルたち、承認欲求が肥大化した現代人の不安……etc. 「我々が生きるこの社会はどこへ向かっているのか?」「脆弱になっていく国家で、空洞化していく社会で、われわれはどう生き抜くべきなのか?」。

 2015年春に入社した新入社員に、「仕事」と「プライベート」のどちらを優先するかを聞いたところ、「プライベート」と回答した人が53・3%で、「仕事」と答えた人の45・1%を上回ったことが分かりました。これは、就職情報サイトのマイナビの調査によるもので、「プライベート」との回答が「仕事」を上回ったのは、2011年の調査開始以来初めてだそうです。また、「残業することを容認する」「仕事のあとも会社の人と過ごしてもよい」と答えた人の割合は、両方とも過去最低となりました。他の先進諸国と比較すると日本の労働環境は、労働時間が大変に長いことで知られています。「仕事よりもプライベート優先」と回答する新入社員の増加はどのように考えればよいのでしょうか? 前回につづき、今回は後編を公開。


写真:PIXTA

 

■リアルに過剰に拘るのはイタイ

 

 男子はどうか。援交ブームの最中、高校の先生の協力で、援交の是非をめぐる高校生討論会を幾つか開催し、司会しました。肯定側は必ず女子が多数になり、否定側は男子が多数になりました。昔ならマドンナだったはずの子が「カネで横取りされている」と感じていた男子にとって自然です。

 先日もある学会でこの話をしたら、〈第一世代〉と同世代の男性らがあとで寄ってきて、「本当にキツかったっすよ、可愛い子がブランドものを持っているだけでウチラはこそこそ噂してましたから」と述懐していました。僕自身も似たエピソードを山のように知っています。

 その一つ。恋い慕う美しい女子にコクったら援交している事実を告白された男子が、どうしたらいいのか分からないと僕に相談してきたことがあります。当時はよくある話です。16歳の高校1年生だったその男子は、今は日本とフランスを行き来するジャーナリストです(笑)。

 96年、院ゼミ男子の7割がギャルゲーマニアだと知った僕が「生身の子とヤレないからって逃げんなよ」と言うと、ある男子が「違います。童貞じゃない僕らは、リアルな子がゲームの中の子と同じように振る舞うのだったらセックスしてやってもいいという感じ」と答えました。

 彼は「今時リアルに拘るのはイタイんですよ」とも言いました。96年という同じ時期、援交に自意識のイタさを見た女子が〈性的に過剰であることはイタイ〉と忌避し、援交に女子の得体の知れなさを見た男子が〈リアルに過剰に拘るのはイタイ〉と忌避し、シンクロしたのです。

 共通して「セックスできないから性的退却に向かったのではない」のがポイントです。実際、性的領域に限らず、90年代後半には〈過剰さというイタサの忌避〉が一般化しました。例えばオタク界隈では〈蘊蓄競争に過剰に拘るのはイタイ〉という感覚が急速に拡がりました。

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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