Scene.14 強烈な個性を尊重しろよ!
高円寺文庫センター物語⑭
「店長。御店の『クイックジャパン』へのご貢献は、弊社の営業担当と編集者からも聞いております。
今日は、その御礼と共に大型書店を凌ぐ、弊社商品のご販売有力書店としての秘訣やご努力を直接お伺いしたくお時間をいただいた次第です」
「いや、社長さん。ボクらは、そんなに考えてないですよ。
高円寺のマーケットに合わせて試行錯誤していたら、太田出版さんの刊行物がジャストフィットしたまでなんですから」
「そう言われても、弊社が93年に出した『完全自殺マニュアル』では、発売直後から意識的にご支援をいただいて、流通が難しいとみるや営業担当に直納でのご販売をいただいたと聞いております。」
「そうでしたね。
『完全自殺マニュアル』は、あの頃は自殺を扇動するのかなどと、マスコミを挙げて非難されまくっていたんですよね」
「はい、一部書店では取扱い拒否の憂き目にも遭いました。驚きですよ、この国には出版と表現の自由はないのかと唖然としました」
「極小本屋の店長如きが申し上げて恐縮ですが、バッシングされてこその出版です!
大新聞で言えば、読売は自民党支持で朝日は共産党に毎日は社会党って言われてきたじゃないですか。
でもね。ボクが若い頃は先輩たちが、そんなブルジョア新聞は信じるなって。新左翼の新聞『前進』や『解放』等々を、読めだのと。ある意味、有象無象で民主主義感があったんですよ。
いろんな版元が、いろんな趣旨の本を出す。流通の最末端の本屋だって主義主張があるんだろうから、本屋によって販売するかも自由!
うちのバイトくん達だって、長崎弁に大阪弁と静岡弁や東京弁。モザイクのように紡ぎ合って文庫センターという本屋に織り上げられているんです。
本屋にはね、ありとあらゆる多様な本が流れ込むんですよ。これ自体が民主主義の言論でしょ、その違いを併せ呑むのが民主主義。あなたとボクは違うんだって、認め合った上で議論し合うのが民主主義社会じゃないですか。あなたの意見には反対でも、あなたの発言の自由は身をもって守るって思いが民主主義。
この根本が家庭の躾でも学校教育でもなされてこなかったから、仲間内で固まって異論とみれば排除・非難する。ここに、イジメの根源があるのにさ・・・・
『完全自殺マニュアル』の出版のお蔭で、ひとがよく見えましたよ。非難する方は考え抜いたつもりでいても、狭い範囲の判断材料しか持たないんでしょうね」
「いっやぁ火傷しそうなくらい、店長の熱い想いが伝わりました。ロックな本屋って、伊達に看板だけじゃないって認識できましたわ」
「キャー! キャー!」
「ん?なんだ、外がうるさいなぁ~」
「店長。きっとオーケンさんですよ」
やっぱりか、制服の高校生女子が騒いでいる。と間もなく、オーケンさんことバンドの筋肉少女帯のリーダー大槻ケンヂさんがご来店。
地元の有名人で文庫センターのヘビーユーザーと言ったら、オーケンさん! いっつも黒づくめのスタイルで存在を消しているようなんだけど、背は高いし芸能人オーラは光っちゃうんだよな! ノーメイクでも、ばればれ・・・・
音楽書コーナーを見て、あそこの書棚とあそこの書棚の回遊パターンを巡ってから『〇〇〇〇〇〇』を毎週、お買い上げって個人情報につき伏字!!!
バイトのクロちゃんが、「店長。深夜のテレビで、オーケンさんが〇〇〇〇の写真集を紹介していたんですよ。あれって、ボクが売った写真集なんです!」
「おい、クロちゃんな!
いつも言っているよなぁ、本を買う行為は優れて極私的行為なんだからね。クロが知り得たことを、安易によそに漏らすんじゃないぞ!
本屋はな、お客様のプライバシーを預かっていると思えよ。」
新刊が出ると、お父様が「ケンヂの新刊なので、よろしく」っと、事務所の社長としてご挨拶にみえていた。
ならば声をかけなかった村上隆さんの時の轍は踏まじと、オーケンさんにアタック!
「いつもご贔屓に、ありがとうございます。
文庫センターの店長です。この度の新刊で、サイン会をしていただけませんでしょうか?」
「あ、ども・・・・
地元なので、とても恥ずかしくて・・・・すいません」