世界のエリートはみなヤギを飼っていた【第7回】「深夜の病院でコーラを飲む者」〈田中真知×中田考〉
田中真知×中田考によるウイズコロナ小説【第7回】
「八木さんて、やさしいんですね」
「えっ?」
レイは遅番で出勤したクルミに、昼間の事件について話していた。
「あのさクルミ、赤尾さん、死にかけたんだよ。吐き出すのがあと少しでも遅かったら死んでいたかもしれないんだよ。それというのもリュウ、じゃなかった、八木さんが赤飯なんか食べさせたからだよ」
「でも、八木さんの処置は適切だったんですよね。ちゃんと肩甲骨の間を叩いていたなんて」
「たまたまうまくいっただけ。そもそも、病院で、もち米のおにぎりみたいな喉につまりやすいものを高齢者に食べさせるなんて、あってはならないことなの。赤尾さん、認知症もあるんだから、よほど注意しないといけないのに」
レイはいいふくめるようにいった。
「赤尾さん、食事制限つらそうだったから、うれしかったんだろうな」
クルミが遠くを見ながらいった。
レイはハッとした。
あのとき、リュウがいっていたことを思い出したのだ。
「食いたいもの食わせてやったっていいじゃねえか。どうせ、もうすぐ死ぬんだし。なあ、じーさん」
「八木さん、なにいってるんですか! 不謹慎です」
「だって、そうじゃん。オレ、このじいさんの家族らしいやつらが廊下で、あと1か月だとか話してるの聞いたんだ。そのくせ病室に入ってくると、すぐよくなるよ、とかいってんだ。それ嘘だろ。そうやってだまされて死ぬまで、まずい飯食わされるなんて、それこそ不謹慎じゃねーか」
レイは少し口ごもった。
「病院は患者の命を守るところなんです。命を危険にさらすようなことはゆるされないんです」
そのときレイに寝間着を着替えさせてもらっていた赤尾が、顔を上げてなにやら口にしかけた。
「赤尾さん、どうしました?」
「赤飯……」
赤尾がぽつりといった。
「えっ?」
「赤飯……うまかった」
「そうか、じーさん、赤飯うまかったか!」
リュウがうれしそうにいった。
赤尾は、また「赤飯……」とつぶやいた。よほどうまかったらしい。
「また、買ってきてやるよ、こんどは喉につまらせんなよ!」
レイはなにかいおうとしたが、途中でやめた。
そして困ったような表情でリュウをにらみつけた。
*
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第1章 あなたが不幸なのはバカだから
承認欲求という病
生きているとは、すでに承認されていること
信仰があると承認欲求はいらなくなる
ツイッターでの議論は無意味
教育するとバカになる
学校は洗脳機関
バカとは、自分をヘビだと勘ちがいしたミミズ
答えなんかない
あなたが不幸なのはバカだから
「テロは良くない」がなぜダメな議論なのか
みんなちがって、みんなダメ
「気づき」は救済とは関係ない
賢さの三つの条件
神がいなければ「すべきこと」など存在しない
勤勉に働けばなんとかなる?
第2章 自由という名の奴隷
トランプ現象の意味
世界が「平等化」する?
努力しないと「平等」になれない
「滅んでもかまわない」と「滅ぼしてしまえ」はちがう
自由とは「奴隷でない」ということ
西洋とイスラーム世界の奴隷制のちがい
神の奴隷、人の奴隷
サウジアラビアの元奴隷はどこへ?
人間の機械化こそが奴隷化
人間による人間への強制こそが問題
第3章 宗教は死ぬための技法
老人は迷惑
老人から権力を奪え
老人は置かれ場所で枯れなさい
社会保障はいらない
宗教は死ぬための技法
自分に価値がない地点に降りていくのが宗教
もらうより、あげるほうが楽しい
お金をあげても助けにはならない
「働かざる者、食うべからず」はイスラーム社会ではありえない
なぜ生活保護を受けない?
金がないと結婚できないは噓
結婚は制度設計
洗脳から逃れるのはむずかしい
幸せを手放せば幸せになれる
第4章 バカが幸せに生きるには
死なない灘高生
寅さんと「ONE PIECE」
あいさつすると人生が変わる?
視野の狭いリベラル
夢は叶わないとわかっているからいい
「すべきこと」をしているから生きられる
バカが幸せに生きるには
三年寝太郎のいる意味
バカと魯鈍とリベラリズム
教育とは役立つバカをつくること
例外が本質を表す
言葉の暴力なんてない
言論の自由には実体がない
バカがAIを作れば、バカなAIができる
差別と区別にちがいはない
あらゆる価値観は恣意的なもの
『キングダム』の時代が近づいている
人間に「生きる権利」などない
第5章 長いものに巻かれれば幸せになれる?
理想は「周りのマネをする」と「親分についていく」
自分より優れた人間を見つけるのが重要
身の程を知れ
長いものには巻かれろ
ほとんどの問題は、頭の中だけで解決できる
権威に逆らう人間は少数派であるべき
たい焼きを配ることで生まれる価値
大多数の人にコペルニクスは参考にならない
為政者が暗殺されるのはいい社会?
謙虚なダメと傲慢なダメはちがう
迫害されても隣の人のマネを貫き通す
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