【CSRの品格】社会課題を事業として解決することの意味とは何だ!
連載『CSRの品格』第2回:ツバルの森 代表社員 三嶋浩太氏
アメリカ、ヨーロッパで学んだCSRのプロフェッショナルであり、「事業と一体化した価値共創型CSR」を推進する株式会社アデランス上席執行役員の箕輪睦夫氏がホストを務め、CSR領域のキーパーソンを迎えて対談を行う本連載。2回目は「CSR」の実践について、ゲストの合同会社「ツバルの森」代表社員であり、環境問題をはじめエネルギー、地域、被災地支援などの社会課題を「ビジネス」として解決する視点から数々のプロジェクトを立ち上げた三嶋浩太氏と語り合った。
■お客様と育てていく「フォンテーヌ緑の森」の着想
——前回は、CSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)活動とは何か、その定義について関西大学教授の髙野一彦先生と議論いたしました。そこで企業がCSRに積極的に取り組む意義は、単なる社会的貢献ではなく、自らの企業価値を高める活動であることを学びました。今回、読者の皆さんに、さらに理解を進めていただくために「CSRを事業と結びつける活動」について、具体的実践を行っている「ツバルの森」の代表の三嶋浩太氏をお迎えしてさらに議論を進めてまいります。
●箕輪氏(以下「箕輪」と記載) まず、当社と三嶋さんとの出会いのきっかけとなった「フォンテーヌ 緑の森キャンペーン」についてご紹介させていただきます。
「マネジメントの父」と言われるピーター・ドラッガー(1909-2005)の研究で有名な北村和敏 NPO法人日本経営倫理士協会(ACBEE JAPAN)常務理事によると、「ドラッガーは企業の社会的責任(CSR)のコアとは、企業活動によって生まれる負の遺産を、しっかりと企業の責任で残さないようにしていくこと。これがまず企業に求められる社会的責任である。」と指摘しているとのことです。負の遺産とは、具体的には、ニュースでも話題となっているCO2排出量や産業廃棄物などの環境への負荷のことなどですね。
じつは、2012年にCSRに対する意識の高い企業が集まる、一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC)で、私たちアデランスのCSRの4つの柱となる取り組み(①愛のチャリティ(子どもたちへのウィッグのプレゼント)、②病院内ヘアサロン(髪でお悩みの患者さまに寄り添う)、③フォンテーヌ 緑の森キャンペーン(お客様と育てる植林のエコサイクル)、④スタジオADによるエンターテインメントウィッグ(ウィッグの文化的価値の開発)について事例発表させていただきました。
すると、その場で聞いていらした北村さんが、「アデランスさんのCSR活動は実に素晴らしい。特に③の「フォンテーヌ緑の森」の活動は、古くなって使わなくなったウィッグをお客様から回収し、新たにウィッグを買い求められたお客様の売り上げの一部を植林に活かすという、負の遺産の軽減だけでなく、お客様と一緒に環境活動を推進していることをドラッカーが生きてらして今日の発表を聞いたら、箕輪さんに握手を求めていると思う。」と評価してくださいました。
アデランスのCSR活動の背中を押してくれた北村さんの力強い言葉でしたが、「フォンテーヌ緑の森」の植林活動の着想と推進をともに図ったのが「ツバルの森」(【注】参照)代表社員の三嶋浩太さんです。三嶋さんの事業活動と環境活動を結びつける着想は本当に素晴らしいですね。
【注】ツバルの森 ツバルの森は、「環境」「企業」「生活者」をつなぐ、「環境プラットフォーム」の会社です。今後より一層の共存が求められる「環境」。その答えを、従来の仕組みとは別に、「ビジネス」として解決できないか、という視点から、ツバルの森の事業モデルは着想しています。1.「環境」にビジネスセンスを 2.「環境」への参加者を増や 3.「環境」の活性化を目標に、現在、「環境」「企業」「生活者」をツバルの森が軸としてつなぐ「環境プラットフォーム」の形成を目指しています。
■三嶋氏(以下、「三嶋」と記載) 前回の箕輪さんと髙野先生との対談において、CSRの骨子を「自社の強みを活かし社会的責任と企業価値を高める」ことをお話しされましたが、私自身も、CSRとは事業のなかで行うことができれば、持続的な活動として根付いていくと考えております。
企業としての永続的なCSRの好循環は、単に寄付などの「いいこと(善意)」だけでは続かないからです。
そういう考え方を基点にして、私たちが関わるクライアント企業とステイクホルダー(利害関係者)との関係や社会環境をしっかりと見据え、さらにそれらをどう組み合わせていくべきか、つまり最適な「仕組み」を考えていくことが大事だと思っています。
そういう考え方を基点にして、私たちが関わるクライアントの企業とステイクホルダー(利害関係者)との関係や社会環境をしっかりと見据え、さらにそれらをどう組み合わせていくべきか、つまり最適な「仕組み」を考えていくことが大事だと思っています。
さらに、企業としての「社会的責任とは、負の遺産を残さない」とすれば、その責任を果たす必要があります。アデランスさんの場合でいえば、「不要となったウィッグの回収と植林を結ぶエコサイクル」が、その仕組の一つです。
●箕輪 三嶋さんとの出会いは2011年、当時はまだ30歳代前半だった三嶋さんの着想の深さに驚きました。
当社の理念の核となる「笑顔のために」を、他社とは一線を画した中で持続的にCSRの取り組みとして推進していくために、フォンテーヌ 緑の森キャンペーンには、お客様とともに森を育てるということによって、継続的に社会的責任を果たすというCSRの本義があると思うのです。
そもそも、三嶋さんの会社名である「ツバルの森」の由来に感銘しました。皆さんもニュースでご存知かと思いますが、南太平洋に位置する「ツバル」という国は、温暖化による海面上昇により沈む恐れのある国ですね。社名に「ツバル」という国名を入れたことは、三嶋さん自身が今後はグリーンコミュニケーションにより温暖化など気候変動といった社会課題を解決していく意思表明であると強く感じました。
■三嶋 「ツバルの森」という社名が注目されることで、「ツバル」という国にも注目され、「ツバルとはなんだろう」と調べることで、地球温暖化について考えるきっかけになるのではないかと考えました。ツバル国自身は、先進国のエネルギー消費している影響を間接的に受けている国です。私たちの会社の活動を通じて、ツバルの現状を知るきっかけになると考え、ツバルの大統領に手紙を書いて、自分たちの社名で使ってもよいか、と打診しました。
●箕輪 そこが三嶋さんの着想のすごいところです。しかもツバル政府に連絡を取ってツバルという名称を使わせてもらう行動力。また、社名に森を加えることで、ツバルを森で守る使命感を表現し、様々なCSR活動のプラットフォームとしての役割も象徴的に示されています。
■お客様も私たちも社会(自然環境)もすべて「笑顔」に
——ドラッカーも驚くかもしれないCSRの一つの理想形としての「フォンテーヌ緑の森」の圧巻は、ステイクホルダーの誰もが犠牲になることもなくすべてを笑顔にさせてしまう仕組みにあることですが、三嶋さんの着想はどのようなキャリアから生まれてきたのでしょうか。最初にシンクタンクの野村総研に就職されましたね。
■三嶋 大学院に行く資格がありましたので、それほど多くの就職活動はしていなかったのです。なので、何社か面白そうなところだけ就活して、合格したところのなかで一番鍛えられる厳しい環境の場所で働くことに決めました。漠然とですが金融マーケットという仕組みを学びたいと考えました。
●箕輪 三嶋さんは理工学部出身という理系人間ですので、私のような文系人間はどうしても感情と勢いで物事を推進する面がありますが、常に冷静に科学的に分析をされますよね。語呂合わせのようですが、「感情」と「勘定」という全く違う視点で複眼的に物事を考えていらっしゃる。三嶋さんは、その後日興アイ・アールでインベスターリレーションズ(投資家向け広報)のコンサルティングをキャリアとして重ねるわけですね。
■三嶋 金融マーケットの仕組みはわかったのですが、その中にいるプレイヤー、例えば株式市場の中で、それぞれの企業の価値が、株価としてどのように形成されていくのか、その仕組みを知りたかったのです。企業の取り組みをマーケットへ伝えていくと、それが株価として評価されていく、そんな内在的な論理を知りたかったのです。
——金融工学を駆使したヘッジファンド(機関投資家)への道などは考えなかったのでしょうか。CSRという方向性に邁進した理由とはなんだったのでしょうか。
■三嶋 ちょうど2008年ぐらい、地球環境問題への関心が高まり、現在は世界的に無視できない問題ですが、ブームになり始めていて。その時に世界的にはCO2の排出権を売買できる仕組みができあがっていました。その仕組を、超過している環境負荷を相殺するような、税金的に形で使うのではなく、たとえばプロモーションのように使えば、企業活動と環境問題の解決がリンクできるのではないかと考えたのです。
CO2排出権の仕組みができるのであれば、たとえば太陽光発電とか、植林なども似たような仕組みをつくれるのではないかと環境貢献商品を増やし、環境を用いて社会を良くするコミュニケーション発信できる手段として、企業に提案することが世界の人々への本当の幸福につながると考えたのです。
●箕輪 「世界中の人々の笑顔」のために、企業として継続的にできることは何があるだとうと考えていた当社にとって、三嶋さんとは2011年に初めてお会いした時から取り組むべき方向性の合致を深く共有できました。
しかも、お客様が自発的にコミットメントすることで企業のCSR活動への参加意識と幸福感をもたらすという、ややもすると、お客様に大義名分を押し付けがちなコーズ・リレーテッド・マーケティングの枠を超えた三嶋さんの考え方に「CSRの品格」を強く感じます。
■CSRとは「論語(感情)と算盤(勘定)」経済道徳合一論
●箕輪 また、三嶋さんの企業人としての取り組みは、明治黎明期の実業家渋沢栄一(1840-1931)の「道徳経済合一(論語と算盤)」を彷彿とさせます。
三嶋さんとは『渋沢栄一に学ぶ『論語と算盤』の経営』(同友館2016年刊行発行)という書籍を共著で書きましたが、社会のために何をすべきかという倫理観を持った「感情」と、そのためには何が必要でどういった形で利益を上げるかという「勘定」の両方の視点を兼ね備える、まさに渋沢栄一の提唱した「論語と算盤、道徳経済合一説」の視点と通じるものがあります。
CSRの根幹には近江商人の商人哲学「三方よし」がありますし、最近話題のSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みについては、渋沢栄一から多くのことを学べます。
渋沢栄一の創業した会社の多くが「百年企業」として今も残っていますよね。渋沢は「日本資本主義の父」として約500の企業を立ち上げたことで有名ですが、実は約600の社会事業に深くかかわっています。豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を安定的に維持するために、社会的共通資本としての病院、養護院とか学校などの社会事業を多く立ち上げています。例えば、私たちは明治神宮の森を歩くと厳かな気持ちと同時にゆったりとした気分で癒されます。この明治神宮の森は渋沢栄一を中心とした有志達の林苑計画という壮大なプロジェクトで設計されたものです。明治神宮の創建予定地周辺は当時まだ荒れ地であり、100年後にも東京の鎮守の森として生き続けることを見据えて造苑されました。明治時代に100年後の絵図を頭に描いて、現代のSDGsに通じるような持続可能な開発をした人たちがいたわけです。
三嶋さんはどう思われますか。
■三嶋 渋沢栄一の生誕の地、埼玉県深谷市には、私の祖父母の家がありました。幼い頃に帰省したときに、駅前に渋沢栄一の像があり、その当時は渋沢栄一という名前は知っていたものの、「何をした人なのだろう?」という感じで、日本の産業・経済を作った人ということを成長してから知り、そんな人が深谷から輩出したことに驚いたことがあります。
箕輪さんとの共書『渋沢栄一に学ぶ『論語と算盤』の経営』(前掲書)を執筆する際に、改めて渋沢栄一の考え方や生き方を調べてみると、そこには、今の経営者とは次元の違った視点があることを感じました。
たとえば、東京ではじめてのガス事業。1867年に渡欧し、パリでガス灯を見て、非常に感銘を受け、帰国後、大蔵官僚を辞して、ガス事業を起こしたというエピソードがあります。当時の東京は、ガスを使う家や施設はほとんどなく、最初は当然ガスが売れず、事業としては赤字になってしまうわけですが、徐々にガス灯が通りに敷設され、室内照明に使われ始め、事業として軌道に乗っていきました。それだけなく、単なる事業ではなく、社会や生活を支えるインフラとして育っていく。そういう話を知ると、渋沢栄一の偉大さを改めて実感します。
渋沢栄一のようなダイナミックな偉業をなぞるのは、私には出来ませんが、10年後、50年後の未来を思い描いて、短期ではなく中長期的な視点でCSRを捉え、社会課題を事業として解決するにはどうしたらよいか、私たちとともに歩むそれぞれの企業の強みをしっかりと理解した上で解決策を考えていくやり方は、渋沢栄一の社会構想の視点と重なるのかもしれません。
●箕輪 近江商人「三方よし」のCSR、渋沢栄一の道徳経済合一論に学ぶ未来を見据えたSDGs、三嶋さんのグリーンコミュケーションへの革新的で真摯な姿勢から多くのことを学びながら、当社の価値創造型のCSR活動を更に深め、社会課題を解決していく一端を事業を通じて担えればと思います。