【連載】適菜収 死ぬ前に後悔しない読書術
〈第3回〉速読バカになるな
哲学者・適菜収が「人生を確実に変える読書術」の極意を語る!
「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!
「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!
ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……
偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?
正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?
哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。
第3回
速読バカになるな
大量の情報を効率よく得るのが読書の目的になれば、速読法を学んだほうがいいということになります。たしかに、仕事で情報を集めるときや、くだらない本を大量に裁くときに速読は必要です。
たとえば調べたいテーマ、「宇宙」でも「餅」でも「インド」でもなんでもいいのですが、関連書は山ほどある。
それを全部読んでいたら日が暮れるので、速読を使って読むべき本を決める。
書店や図書館で本を選ぶときには、一冊三分くらいで目を通せば十分です。
速読にもいろいろあるようですが、私の場合、一ページを二つか三つのブロックに分けて、一枚の絵を見るようにして、流れを理解していく。気になるワードが出てきたら、スピードを落として一行くらい読む。
当然、頭の中で音読しているわけではありません。
読む本が決まったら、ある程度の速読に切り替えます。段落ごとに視線を動かし、内容をつかむ。
こうして読むのにかかる時間は一冊15分から30分くらいでしょうか。
もちろんこれは、情報を集める際の読書についてのみいえることであり、そのようなテクニックは、ある程度読書を続けるうちに自然に身につくものです。
速読は情報を得たり処理するためにしか使えません。
私は高校三年生のときに、英語の速読を覚えました。
公文がやっているSRSというシステムの教室に半年くらい通って、ストップウォッチを持って、大量の英文を読んだ。たしかに英語の成績は上がったし、ペーパーバック一冊くらいは読めるようになりました。
しかし、だからといって、頭がよくなったわけではない。
日本語で書いてあろうと、英語で書いてあろうと、難しい本は相変わらず理解できなかった。
当たり前です。
バカが英会話を習ったところで、英語をしゃべれるバカになるだけ。それと同じです。
きちんとしたものを速読しても意味がない。
500冊のくだらない本を速読する暇があるなら、五冊の古典的名著を熟読したほうがよほどいい。
料理と同じで、きちんとしたものは、ゆっくり味わわなければ意味がありません。
レストランにいる時間にも意味があるのです。
ビュッフェや食べ放題に行き「元をとる」とか「コスパがいい」などと言いながら、むやみに腹をふくらませているのが現代人です。
文学作品や思想書を速読するのは、映画を二倍速で見るのと同じです。
ハリウッド映画なら二倍速で見ても同じでしょうが、ルキノ・ヴィスコンティ(1906~76年)やフェデリコ・フェリーニ(1920~93年)を二倍速で見ても面白いわけがない。時間の流れを計算して作られた映画はそのままで見るべきです。
東野圭吾の小説なら三分で読めるかもしれませんが、それにどれほどの意味があるのかは疑問です。
〈第4回「正解を暗記する人たち」につづく〉
著者略歴
適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。