【連載】適菜収 死ぬ前に後悔しない読書術
〈第6回〉思考回路を身につける
哲学者・適菜収が「人生を確実に変える読書術」の極意を語る!
「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!
「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!
ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……
偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?
正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?
哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。
思考回路を身につける
世の中には自己啓発書のような読書論が多い。
その中に「とにかくたくさん読め。内容は忘れてもいい」というのがあった。
でもそれではダメです。
濫読期の子供ならともかく、大人が読んだ本の内容を忘れていたら、時間のムダです。
そもそも内容を忘れていいような本を読むべきではない。
トリガーというか、ひっかかる部分を一節でも頭の中に保存しておくべきです。
そういう目的意識をもって本を読めば、古典的名著の中には必ず核となる思考回路が存在することに気づきます。
本を読むときには大事な部分に傍線を引きます。
たまに「本に傍線を引くなんてとんでもない」と言う人がいますが、相手にしないのが一番です。
傍線を引くのは、読み返すときのためです。
傍線を引いた部分とその周辺だけ読めばいいから、二回目、三回目に読むときは時間もかからない。
その中でも、著者の思考回路を示しているところに印をつけていく。傍線の横に番号を振ってもいいし、ページの角を折り曲げてもいい。
先ほど例に挙げたトクヴィルなら、不平等ではなくて平等の中で革命は加速するのであり、専制から解放された人間は専制に呪縛されるようになるといった部分でしょうか。
こうした感銘したところ、思想の核心の部分をチェックする。
トクヴィル特有の思考回路を頭の中に叩き込むわけです。
アレントに関してもそうですね。
アレントは世俗の「常識」とは反対に、近代の理想や社会正義、弱者に対する同情がジェノサイドにつながるカラクリを示していく。
アレントの思考回路を追体験することで、見晴らしがよくなる。
その「見え方」は、革命の害だけではなく、革命批判者や自由主義者に内在する欺瞞までを貫く。アレントがナチスを批判するのと同時にユダヤ人社会やアメリカの矛盾を突いたように。
その「見え方」を体験するのが重要であり、トクヴィルやアレントが出した答えを暗記することではない。
ヤスパースが言っていることも同じです。
これは哲学だけでなく、すべてにおいていえることです。
「心臓」とは思考回路です。
答えにとらわれれば思想は死にます。
思考回路、視線を身につけない限り、見えてこない世界は確実にある。
見えてくる世界が示すものは「結論は危険だ」という事実です。
〈第7回「自分の意見などいらない」につづく〉
著者略歴
適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。