マイナカードトラブル激増の原因は「デジタル庁の人材不足」と「河野太郎の不見識」【甲斐誠】
「デジタル国家戦略 失敗つづきの理由」集中連載【序】
デジタル庁発足から2年近くが経つ。情報漏えい、不祥事、サイバー攻撃、システムトラブルetc. デジタル事件は多発傾向だ。デジタル相河野太郎は2022年8月17日の就任時に「デジタル庁を辞めて民間に帰った人が、もう一度戻ってくれるようなデジタル庁にしたい」などと語り、人材不足が深刻であることを隠さなかった。マイナンバーカードの個人情報流出事故は止まらず、手入力する役所職員の人手不足をデジタル庁職員が嘆くという有様。河野はマニュアルを徹底させるように指示すると語るが国民はもはや信用していない。デジタル庁という組織が抱えている問題は、いま日本が抱えている難問そのままではないか。「人手不足の放置」「責任の所在の曖昧さ」・・・これって、あなたの会社の問題とも被るのではないか。中央省庁を長年取材し、日本のデジタル戦略の最前線を取材しつづけた現役記者が明かす責任感のない組織の事実!電子書籍『デジタル国家戦略 失敗つづきの理由』から本文抜粋。
■岸田政権が掲げたデジタル田園都市構想のゆくえ
菅政権から岸田政権への移行に伴い、デジタル政策には大きな変化があった。「デジタル田園都市国家構想」の急浮上である。岸田首相が所属する宏池会出身の大平正芳元首相が提唱した「田園都市国家構想」のリバイバル版だ。保守本流を自任する会派メンバーの自尊心と人口減少に悩む地方のニーズをともに満たすアイデアで、岸田政権が掲げる「新たな資本主義」とともに、いつしか看板政策となった。
実現に向け、既存の「まち・ひと・しごと創生本部」に取って代わる形で事務局が内閣府に置かれた。「デジタル田園都市」の定義がいまひとつ明瞭ではないが、IT技術やデータ連携を活用して、地方でも都市部と遜色のない便利で豊かな生活が送れるよう
にするのが狙いという。
国がいくらデジタル活用の進んだ都市を築きたくても、都道府県や市区町村には自治があり、直接手を出すことはできない。そこで2021年度補正予算には関連経費として200億円を盛り込んだのは先述した通りで、やる気のある自治体に交付金を受け取ってもらい、デジタル化実現に当たっての軍資金としてもらう考えだ。北海道北見市で行っている「書かない窓口」を参考に、同様の取り組みなどを進める自治体をタイプ1と位置付け、経費の半額を負担する一方、2022年10月末までに複数分野でデータ連携を行うなど、より先進的な試みはタイプ2、またはタイプ3と分類。6億円を上限に、経費の3分の2を補助する。かなりの大盤振る舞いで、政権の取り組みに対する期待の高さがよく表れている。この交付金に対する自治体の関心は高く、多数の申し込みがあった。2022年3〜6月にかけてタイプ1は403団体、タイプ2とタイプ3は計23団体が採択された。
さらに政府は、デジタル化に積極的な自治体や企業を顕彰する事業も始めた。同年4月4日、岸田文雄首相がデジタル田園都市国家構想実現会議で急きょ打ち出した「Digi田(デジデン)甲子園」。元球児の岸田文雄首相にちなんだネーミングなのか、真相は不明だ。政府関係者によると、各省庁の若手職員が提言したということではなく、首相周辺が構想をぶち上げた政権肝いり企画らしい。
岸田首相は会議で「地方公共団体や民間企業の意欲や広く国民全体の関心を高め、様々な主体が積極的に参画いただける環境を整えることも重要」と強調した。そのためにデジタル田園都市構想の実現につながる各地域の取り組みの中から、特に優れたものを表彰する「Digi田(デジデン)甲子園」を開催すると明らかにした。夏場に自治体向けを実施し、年末に国民・企業向けを行うと説明するなど力の入った様子で「これらを通じ全体の底上げを図り、個性を生かした地域の活性化を進めてまいります」と述べた。
デジタル田園都市構想は、2022年夏の参院選に際して自民党が示した政権公約にも十分盛り込まれた。「『デジタル田園都市国家構想』で“全国どこでも便利な生活“を実現する」とのスローガンは分かりやすく、地方で暮らす人々にも響いたに違いない。これまで掲げてきた高速道路や新幹線といったインフラが一定程度整ったことを考えれば、ITを使った生活利便性の向上策は、公共事業に代わる新たな自民党の目玉事業と言えなくもないだろう。事実、デジタル庁政務三役の一人は「デジタルは21世紀の公共事業」と主張してはばからない。
こうした期待感を高める政治的な動きの一方、鳴り物入りで登場したデジタル庁が目立った成果を出せていないという現状もある。2021年秋から22年春にかけて、デジタル絡みの案件で話題作りを演出してきた岸田官邸は、6〜7月頃にかけてはリニア中央新幹線の視察や旅行割引サービス「県民割」の全国拡大など国土交通行政に絡む案件を相次いで打ち出した。デジタル分野の施策に即効性がないことを感じ取り、方向転換を図り出しているのだとしたら、デジタル政策を巡る雲行きは徐々に怪しくなってくる。生みの親である菅氏の退陣と、引き継いだ岸田政権の関心が少しずつ薄れていることを踏まえれば、2022年9月で発足から2年目となったデジタル庁はまさに正念場を迎えることになる。
- 1
- 2
KEYWORDS:
✳︎甲斐 誠のベスト新書新刊<電子書籍>発売✳︎
※上のカバー画像をクリックするとAmazonページにジャンプします
<内容>
■過去を振り返れば、日本のデジタル国家戦略は失敗の連続だった。高い目標を掲げながらも先送りや未達成を余儀なくされるケースが多かった。なぜ失敗つづきだったのか? どうすれば良かったのか? 政府主導のデジタル化戦略の現場を密着取材してきた記者がつぶさに見てきたものとは何だったのか? 一般のビジネスマンや生活者の視点もまじえながら、「失敗の理由」を赤裸々に描写する。
■そこには、日本の組織や人材の劣化があった。読者は他人事とは思えない「失敗する組織」の構造を目の当たりにするだろう。
■さらに、先進IT技術の導入による社会変革、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が急展開する中、われわれはどう適応し、どうやって無事に生き残っていくべきか? 「デジタル化失敗の理由」を20個厳選し、必須知識として本文中に詰め込んだ。
■セキュリティの厳しさから、DX推進の総本山であるはずのデジタル庁は、中央省庁の職員でさえ敷居が高く、全貌が見えにくい。急激に変貌する社会とわれわれはどう付き合っていけば良いのか? 本書ではデジタル庁とその周辺で今後起きる事態を予測しつつ、読者に役立つ知識を提供する。
<目次>
まえがき 日本のデジタル国家戦略は、なぜ失敗しつづけるのか
第一章 即席官庁
理由1■創設前夜
・時間365日
・地方でも都市並みを提言
・イット?
理由2■15番目の省庁
・人集め
・虎ノ門から紀尾井タワーへ
・幹部人事
理由3■デジタル庁始動
・新しい社会を
・リボルビングドア
・誓約書
・総裁選不出馬
第二章 監視社会
理由4■エルサルバドル仮想通貨大失敗のゆくえ
・ビットコインを法定通貨に
・ビットコインの街
理由5■GPS管理される社員こそ本物の社畜
・リモートワークで暴走する社員管理
・「部屋を見せて」
・ウェブ閲覧履歴はどこまで見られているのか
理由6■社内メールで懲戒になる例とは?
・東京都職員の例
・心理的安全性
・情報はどこまで守ってもらえるのか
第三章 未完のマイナンバー
理由7■マイナンバーと口座の紐付けをぶち上げた総務大臣の苦杯
・コストパフォーマンスが悪過ぎる
・口座紐付け
理由8■取った方が良いのか
・キャバ嬢のケース
・張り込み週刊誌記者の場合
理由9■始まりは「国民総背番号制」
・70年代に検討取りやめ
・多数の不正利用
・3度目の挑戦
理由10■マイナンバーの登場、そして利用範囲の拡大
・相次いだトラブル
・信頼なき社会
第四章 相次いで登場した政府開発アプリ
理由11■政府が推奨したCOCOA、失敗の原因
・不具合
・8・5倍に膨らんだ契約額
理由12■オリパラアプリ、思わぬ副産物
・アプリ一つに73億円
・転用、使い道広がる
・電子接種証明書を開発
第五章 システムとデータで日本統一
理由13■アマゾンを採用した日本政府
・政府調達で日本企業の参加なし
・システムトラブル
・外資にやられる日本
理由14■システム統一の野望
・17業務
・書かない窓口の普及
・自治体は国の端末になるのか
第六章 デジタル敗戦からデジタル統治への野望
理由15■敗北の実態
・本当に負けていたのか
・加古川方式
理由16■新たな統治構造
・役所から人が消える日
・デジタル庁が思い描く未来
・未来社会の到来を阻む障害とは
・ネオラッダイト
理由17■サイバー攻撃に耐えられるデジタル統治国家なんて幻想
・世界初の国家標的型サイバー攻撃
理由18■ウクライナvsロシアのサイバー戦争から何を学ぶか
・サイバー空間での攻防
・オンライン演説行脚
・対策は?
第七章 デジタル社会の海図
理由19■日本は大丈夫か
・日本のサイバーセキュリティの現状は?
・デジタル人材の育成は進むのか
・移民受け入れで「開国」要求
理由20■われわれは何を信じ、どこまで関わるべきなのか
・信用できるネット社会
・ベースレジストリに漏洩の恐れはないのか
・法令データ検索
・岸田政権が掲げたデジタル田園都市構想のゆくえ
あとがき デジタル管理社会は日本人を幸せにできるのか