【連載】適菜収 死ぬ前に後悔しない読書術
〈第10回〉濫読の害について
哲学者・適菜収が「人生を確実に変える読書術」の極意を語る!
「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!
「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!
ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……
偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?
正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?
哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。
第10回
濫読の害について
多読か精選か?
これはあらゆる読書論で繰り返し扱われるテーマです。
でも私にはそれほど意義のある議論とは思えません。多読(子供の読書)の時期は必要でしょうし、どのように精選(大人の読書)に切り替えていくかが大切です。
京都学派でマルティン・ハイデッガー(一八八九~一九七六年)の弟子だった三木清(一八九七~一九四五年)は言います。
濫読反対派の急先鋒はショウペンハウエルでしょう。
濫読は人間をダメにすると言っています。
ショウペンハウエルは、自分の頭で考えるときに他人の思想は邪魔になると言います。
しかしこれはショウペンハウエルのような天才にだけあてはまることであり、われわれ凡人は他人の思索によってしかものを考えることができない。そして、それはごく普通のことです。
イギリスの哲学者ジョン・ロック(一六三二~一七〇四年)は、読書は知識の材料を提供するだけであり、それを自分のものにするのは思索の力だと言いました。しかし、その思索も結局は他人に影響されている。
新渡戸稲造も濫読反対派です。
一方、小林秀雄は濫読賛成派です。
ここで小林は「最初の技術」と限定しています。
つまり、濫読だけでもダメだということです。
三木は、読書は恋愛と同じようなものだと言う。
説教したところで、青年は危険な恋愛に身をゆだねることをやめない。
あやまちを為(な)すことを怖(おそ)れていてはなにも摑むことができない。
その誤謬からなにかを摑み取ればいいのだと。
たしかにそれはそうです。
三木が簡潔にまとめています。
〈第11回「道はすでに示されている」につづく〉
著者略歴
適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。