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「大学に入って世界は開けましたか?」古市憲寿さんに聞く!(20)

「新しさ」が「普通」になってきたSFCの課題

慶應義塾大学のAO入試では、「詩」の受賞歴をアピールしたという古市さん。1990年に日本で初めてAO入試を導入した慶應SFC(湘南藤沢キャンパス)とはどのような場所だったのでしょうか?

そこには誰も排除しない空間があった

 多様性があっていろいろな人がいる場所だったので、居心地はよかったです。たとえば、身長制限に引っかかってパイロット養成学校に入れなかった女の子が「なぜパイロットに最低身長があるのか?」という研究をしていたりしました。それぞれの考えていることが、すごく興味深かったですね。
 同級生だと、高校時代にサッカーで好成績を残していた俳優の水嶋ヒロくんがいたり、一人ひとりが得意ジャンルを持っていました。学生に多様性がある分、誰も排除しない空気がありましたし、そして自分も排除されている感覚がありませんでした。

 キャンパスには、AO入試で入ってきた学生と、一般入試で入ってきた学生が混ざっています。両者の間に壁があったわけではありませんが、僕個人の話で言えば、AO入試で入ってきた子の方が仲良くなりやすかったですね。AO組の学生は、やりたいことが明確だったり、すでに何らかの専門性を持っていたりする子が多かったんです。今でも連絡をとる友だちもAO組が多いですね。

 やりたいことが明確な学生はみんな「何か新しいことを始めよう」という気持ちが強かったように思います。そのためか、仲良くなったらすぐに「これ一緒にやらない?」とか、「それならこの人を紹介するよ」とか話がトントン拍子に進んで、いつの間にか仕事につながっていたりしていましたね。そうやって、周りに自分の知らない世界を見せてくれる人がたくさんいたので、毎日が刺激的で飽きることはありませんでした。

写真:花井智子
古市さんが東京大学大学院に入学した当時は、それぞれの図書館の開館時間の違いや、閉架書庫の多さといった使いにくさに困惑したという。

 余談ですけど、東大大学院に入学した時はSFC(環境情報学部が入っている「湘南藤沢キャンパス」の略称)との環境の違いに衝撃を受けました。
 僕がいた2005年頃はタブレットこそはなかったんですが、SFCの学生はノートパソコンで授業のノートを取っていました。それなのに東大ではそもそも学校にパソコンを持ってきている人が少なかったことに驚きました。授業のシラバス(科目概要・授業の目的や手法・成績評価の方法と講義スケジュール)も入学した頃は冊子を参照しなくてはいけなかったり、その説明も「詳しくは初回授業で説明」という一言しかなかったり、履修申告も手書きの紙だったりと、カルチャーショックの連続でした。

 ただ、SFCの「新しさ」は、今ではどこの大学でも当たり前ですよね。SFCでは10年以上前から多くの授業をオンライン公開しているのですが、そのインターフェースが今でもほぼ当時のままだったりするんですよね。むしろ、最近では東大の方が最先端の領域に力を入れ始めようとしているように思います。
 昔の「新しさ」が「普通」になってきている今、数々の制度やシステムが惰性のまま継続されないように、どうアップデートしていくか――これは、先行者としてのSFCが向き合うべき、これからの大きな課題かもしれません。

 

明日の第二十一回の質問は「Q21.急に友達ができるようになった理由とは?」です!

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古市 憲寿

ふるいち のりとし

1985年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。株式会社ぽえち代表取締役。朝日新聞信頼回復と再生のための委員会外部委員、内閣官房「クールジャパン推進委員」メンバーなどを務める。日本学術振興会「育志賞」受賞。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『だから日本はズレている』(新潮新書)などがある。

Twitter: @poe1985


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