【連載】適菜収 死ぬ前に後悔しない読書術
〈第13回〉『ゲーテとの対話』はなぜ凄いのか
哲学者・適菜収が「人生を確実に変える読書術」の極意を語る!
「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!
「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!
ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……
偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?
正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?
哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。
第13回
『ゲーテとの対話』はなぜ凄いのか
『ゲーテとの対話』は人類の必読書です。
私だけではなくて、ありとあらゆる人が、『ゲーテとの対話』を薦めています。
森鷗外(一八六二~一九二二年)も芥川龍之介(一八九二~一九二七年)も太宰治(一九〇九~四八年)も三島由紀夫も水木しげる(一九二二~二〇一五年)もトーマス・マンも『ゲーテとの対話』を愛読した。
あらゆる本読みが、偉大な書として『ゲーテとの対話』を挙げています。
ニーチェは言います。
まったくそのとおりだと思います。
ゲーテは時代に制約された人間でもドイツ的でもない。
ヨーロッパの全教養がそこに流れ込んでいる。
だから、価値判断の王道を示すことができた。
ゲーテを読めば、人間の精神の病は治ります。
ナポレオンは遠征するときに戦地にたくさんの本を持っていった。
その図書目録にゲーテは注目します。
このように、ゲーテは自分の思考回路をエッカーマンに見せるわけです。
エッカーマンが凡人だったら、それを聞き逃してしまったかもしれない。
しかし、エッカーマンも偉大な人間だった。
適切な質問をし、答えを引き出し、書き残すことができたのは、エッカーマンが言葉の価値を理解していたからです。
こうした核心をついた言葉が、ほぼ全ページにわたり続く。
ニーチェが言うように「私たちはゲーテを飛び越しうる」などとは考えるべきではありません。
ゲーテがやったことを再三再四繰り返す必要がある。
偉大なものは、自分の卑小さを理解するためにある。
結局、真っ当なものにつながる意志があるかどうかです。
何十万円もする自己啓発セミナーに行って、わけのわからない奴の話を聴くより、数千年の歴史においてもっとも高いところまで上昇した人間が書いた本があるのだから、それを読んだほうがいいに決まっています。
逆に言えば、高いカネを出してセミナーに行き、納得して帰ってくるような人間だから、とりかえしがつかなくなるのです。
ゲーテは言います。
偉大な人間が全生涯と財産をかけて獲得したものが、岩波文庫三冊で手に入るわけです。
しかも、一冊一〇〇〇円もしない。図書館なら無料で借りることができる
そう考えたら、それを読まないのは頭がおかしいとしか言いようがありません。
〈第14回「なぜ人間はくだらないものを読むのか」につづく〉
著者略歴
適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。