分断から融和に向かうのは可能なのか? 「わかり合う」を目標にしてはいけない理由【大竹稽】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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分断から融和に向かうのは可能なのか? 「わかり合う」を目標にしてはいけない理由【大竹稽】

「なぜカルトにハマるのか?」〜分断から融和へII〜【第5回】


安倍元首相銃撃事件から再び浮上した統一教会問題。宗教団体の政治との関わりや反社会的な活動の規制のあり方などをめぐってカルト規制法なるものも議論され始めた。一方で、そもそも人はなぜカルトにハマってしまうのか? この問いに向き合わねばならないだろう。「てらてつ(お寺で哲学する)」で有名な異色の哲学者・大竹稽氏が、「救済と信仰」を問いながら「カルトにハマるとは一体どういうことなのか?」について答えていく集中連載(全5回)の最終回。


2022年11月2日、ブラジル大統領選挙でボルソナロが敗北し、その結果に抗議デモをする民衆。いま世界中で分断が深まっているようにみえる。

 

◆身体的な「正しさ」とはなにか

 

 どうすれば、分断から融和へと進めるのでしょうか。初回で、その鍵は「身体性」にあると予告しておきました。

 まずは、「正しさ」について思考実験をしてみましょう。

 今、数人の仲間と暗い山道を歩いています。街灯はもちろん、懐中電灯もありません。携帯電話もありません。その道を、あなたはどのように歩きますか?

 「オレが正しい」という人についていきますか?

 『暗い山道の歩き方(喩え)』に書かれているような、一般解を頼りにしますか?

 もちろん、どちらにも頼りにする、頼りにさせる理由があります。これらが要請されるシチュエーションもあるでしょう。しかし、最終的かつ根本的な「正しさ」は、「わたしの身体に従う」ことです。もしかしたら、消防隊員やレスラーのような人間が、おじいちゃんと一緒に歩くこともあるかもしれませんよね。

 もちろん、「他の奴らはほっといて、オレだけズンズン歩けばいい」も「正しさ」の一つです。しかし、宗教者には容認されません。哲学者もまた、この問題に関しては宗教者と同じだと覚悟しなければならないでしょう。

 自分以外の「正しさ」にも、参照される価値はあります。が、依存すべきではありません。信頼されるものは、何よりもまず己の身体です。身体は常に「正しく」動いているのですから。

 これを身体的な「正しさ」とでもいいましょうか。この正しさは、各々違いますよね。

 リーダーの正しさだけでは危険です。えてしてリーダーは、勇敢です。即断即決をするタイプも多いでしょう。身体能力にも優れている人も多いでしょう。しかし、それは自分のペースではありません。

 しばしば、わたしたちは赫赫たる業績を残している有名人に引かれてしまいます。でも、大声で騒ぐ人の「正しさ」や、輝いている「正しさ」は、なかなか手に負えないですよ。身体は正直です。大声で騒がれたら耳が痛くなりますし、輝きはしばしば目を眩ませます。「正しい」と主張し、「わかる」に依存している人は、自身の身体の声に、意識を向けてみませんか。耳や目が苦痛を訴えているかもしれません。

 正しい人の判断のみを頼りにして、全員が二人三脚のように足を縛って歩く。これがカルト的な歩き方といえます。これは我が身を滅ぼす所業です。では、足ではなく手を繋ぐのはどうでしょう? 手を繋ぐとき、二人の間には、自然な距離ができます。間合いとでもいいましょうか。この間合いが、自らの身体の声を聞くのに欠かせません。この間合いがあれば、自ずとゆったりしたペースになるでしょう。

 導師という呼称が証するように、宗教者もリーダーの一人です。一緒に歩く人に、「自分についてこい!」ではなく、「自分で歩いてね。でも、わたしも歩きます」と伝えられるか。ここが肝になるでしょう。信者としては、「あの人についていけば幸せになる」のような信仰をしていないか、自問自答してみましょう。

 依存し合う集団は、己の「正しさ」でもって別の集団を攻撃します。まずは、分断から融和へ至るためには、わたしたち自身を反省しなければなりません。

 「お互いの正しさを尊重しているか?」

 「わかったふりをしているのではないか?」

次のページいかに分断から融和へ進むか

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大竹稽

おおたけ けい

教育者、哲学者

株式会社禅鯤館 代表取締役
産経子供ニュース編集顧問

 

1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

 

専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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