あおむろひろゆきのてくてく子育て日記〈第5話〉「夜の凪」
なかなか眠らない子どもを寝かしつけるために、家の外へ
あれは半袖の季節だったから夏かな。生後半年くらい。なかなか寝ない子どもを抱っこ紐に入れて、よく夜の街を徘徊していました。
街灯がぼんやりと道を照らします。テレビを見ている家、電気の消えている家、お布団が干しっぱなしの家。不思議そうに顔を上げる番犬達。田んぼのあぜ道ではコオロギや鈴虫が鳴いていて、風に揺れる稲穂はザアザアと乾いた音を立てます。そんな中子守唄を歌いながら、月に照らされた子どものおでこを見つめて歩きました。
すぐに寝ることもあれば、全然寝ない日もある。時には1時間近く歩くこともありました。抱っこ紐の肩紐が食い込み、腰もだるくなってきて、ああん、もうそろそろ寝てくださいよと願ったところで、子どもは抱っこ紐の中からジイッとこっちを見ています。
同じような状態の人にも何度か出会いました。小さな声で子守唄を歌ったり、優しい声で話しかけたりしながら歩いている姿を見ると、こうしてあてもなく歩いているのは自分だけじゃないんだと、少し心が救われたものです。すれ違う時には軽く会釈をして、またお互いの世界に戻ります。同じ人に立て続けに3回ばったり会った時は、さすがに「なかなか寝ませんねえ」と顔を合わせて笑ってしまいました。
あの時の赤ちゃんたちは今、どうしているのでしょう。みんな大きくなったかな。おかあさんやおとうさんの子守歌なしでも寝られるようになったかな。抱っこ紐の感触ももう、忘れてしまったのかな。
大変だったあの夜も、やっぱり恋しくなってきました。
この連載は隔週金曜日の更新です。第6話は、2週間後の5月13日(金)に更新予定です。次回もお楽しみに!