アンデルセン賞受賞作家•上橋菜穂子さんが夢中な本
〜生きることに寄り添う3冊〜
綾瀬はるかさん主演のNHKドラマ『精霊の守り人』の世界観がわかる展覧会「上橋菜穂子と<精霊の守り人>」が、7月3日(日曜日)まで東京•世田谷文学館で開催中だ。
人類学者で、児童文学のノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞も受賞している作家•上橋菜穂子さんに、夢中になった本についてお話をうかがった。
今回、上橋さんが揚げてくれた本3冊のテーマは、「“生きること”に寄り添う本たち」。壮大なスケールの物語を創作する上橋さんは、どんな本に興味を抱き、どんな角度から読んでいるのだろうか。今、真剣に生きるあなたがハッとさせられるヒントがきっと見つかるだろう。
“生きること”に寄り添う本たち
「私にとって原点となる作品は、トールキンの『指輪物語』。10代のころ、熱病のようにのめり込んだ本です。
そして、病の話題が多くなる年代の今、ハッとさせられたのが、津田篤太郎さんの『漢方水先案内』。東洋医学の身体観がわかって、疑問に思っていたことに新たな光があたった気がしました。
西洋医学はどこの文化の中でも理解される普遍性を持っていますが、免疫系が自分を敵だと誤認する膠原病や自分の細胞が暴走するガンなどは、西洋医学の考え方や手法だけではうまくいかない場合もあるようです。西洋医学では「病んだ部分」を排除しますが、「病んだ部分」も自分なので、治療によっては自分の身体がやられてしまったりすることがある。
こういうとき、西洋医学と東洋医学が手を組むと素晴らしい効果が表れることがあるようです。 東洋医学は部分ではなく、全体を見ようとします。すると、完璧な健康状態などなかなかなくて、歪んでは戻る動的な存在としての身体が見えてくる。そういう身体と付き合っていくのが人間なのだと、この本は気づかせてくれたのです。
そして3冊目は、茨木のり子さんが亡夫への思いを歌った詩集『歳月』。私は幼いころ死が怖かった。人は死をまぬがれないのに、それを納得するはたらきが人の心に備わっていない。しかし歳を重ね、親しい人や自分自身の死も見えてきたとき、この本が、寒いときの毛布のように、助けになってくれるのです」(談)
<上橋さんの3冊「“生きること”に寄り添う本たち」>
『新版 指輪物語』J.R.Rトールキン著(評論社文庫) 『漢方水先案内』津田篤太郎著(医学書院) 『歳月』茨木のり子著(花神社)
上橋菜穂子さんプロフィール
作家•川村学園女子大学特任教授 1962年東京生まれ。オーストラリアの先住民アポリジニを研究。1989年に『精霊の木』で作家デビュー。数々の賞を受賞した『精霊の守り人』を始め著書多数。2014年に国際アンデルセン賞を受賞。2015年に『鹿の王』で本屋大賞を受賞するなど話題作を発表し続ける。
<精霊と守り人シリーズ>の世界観を、シリーズ関連資料や上橋さんの語り下ろしインタビュー映像、単行本の挿画、テレビドラマや漫画化された作品などを通して紹介する。また、文化人類学者でもある上橋さんの「文化人類学研究ノート」なども展示され、構築された異世界をめぐる物語の普遍性の理由もうかがわれる。開期中には、物語における食事についての対談や、猟の仕方や暮らしぶりについての講演なども予定されている。
期間/7月3日(日曜日)まで
場所/世田谷文学館 東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間/10:00〜18:00
休み/月曜日
料金/一般800円、65歳以上•高校•大学生600円
問合せ先/☎03-5374-9111