【PCを捨てよ、カフェに立とう】〜ライターが喫茶店のマスターをやってみて気がついた「6つの教訓」〜
1.リモートワークの実験
先に述べた通り、私の会社の仕事はほぼリモートワークになり、ライター仕事の取材も9割方リモートになった。クライアントのオフィスに出向く用事もなくはないが、2週間に一度あるかないか程度だ。要するに、大体のことが自宅内で完結するようになった。
だったらネット環境さえあればどこでも仕事ができるのではないだろうか?
それにコロナ禍以降、盛り場に出るのに感染リスクの覚悟が必要になったこともあり、個人的には、多くの人が集まる東京という街に魅力をあまり感じなくなったところでもあった。せっかくだから、この機会を「東京まで日帰りはできないけれど、いざとなったら帰れる場所に居住してのリモートワーク」が可能かの実験と考えてみてはどうだろうか。
喫茶店を開くのが週2日ということは、休日を取らなければ週5日を普段の仕事に使えるはずだ。忙しいだろうけれど、1ヶ月程度なら体力も保つだろう。
2.リスキリング
2021年当時は一般的ではなかった(そして昨今では、おそらく教育産業と政治の癒着が原因で舌禍を招き、大炎上した)「リスキリング」という言葉だが、「今とは別の仕事を体得する」こと自体は素晴らしいことで、時間のゆとりがあるならぜひやるべきだ。
複数の事業を持つ大きな企業なら、部署異動によって会社が「リスキリング」させてくれるわけだが、私の勤め先のような零細企業ではそのようなキャリアパスは望めない。だからこそ自分のキャリアを自分で創らせるために、私の勤め先は副業を解禁しており、実際に私はこうしてライターをやっているわけだが、例えば60歳になった時に今と同じようにライターをやっている自分の姿はあまり想像できない。まだ体力があるうちに他の仕事の可能性を試してみる価値があるはずだ。
特に「喫茶店の営業」は、誰もが業務内容をほぼ完璧に想像できるシンプルな仕事である一方、商品開発、仕入れ、加工、マーケティング、接客、従業員の雇用、そして会計と、事業における一通りのプロセスを含んでいる。普段は事業を回すための歯車として働くサラリーマンにとって、事業全体を見渡す商売感覚を身につけるのにうってつけのチュートリアルと言えるだろう。
開店のためのイニシャル・コストを負担せずに店を運営できるのは、職業訓練としてはかなり美味しい話なのではないだろうか。
3.(コ)ワーケーション
ライターのご多分に漏れず、私は不眠症気味だ。ところが、カフェがある西和賀町にそれ以前に訪れた際、温泉が身体に合うのか、緑が目に優しいのか、それとも都会から離れた安堵か、どこに泊まってもぐっすり眠れたことがとても印象的で、じつはこれがこの話を受けた最大の決め手だったのかもしれない。ちょうど感染が落ち着いていたタイミングでもあったので、単純に、コロナ禍での生活で緊張した身体をほぐしたかったのだ。
保養地に普段の仕事を持っていくわけだから、これは一種の「ワーケーション」だ。
私はワーケーションについて、「保養地に行ってまで仕事をするなんて本末転倒だ」と批判的な立場だったが、今回は「喫茶店のマスター」という、現地の人々と交流できる仕事まで用意されている。
いまでこそ当たり前になったコワーキングスペースをはじめて日本に取り入れた、コワーキングの伝道者・伊藤富雄氏は、ただ旅行先で普段の仕事をするだけのワーケーションではない、滞在先のコミュニティと仕事を通して関わる働き方を「コワーケーション」と呼んでいる。本人にとっても、地域にとっても、これまでなかった方向性を創り出す可能性のある働き方だ。
保養で行こうと仕事で行こうと、その土地にとって私が異邦人であることに変わりはないが、どうせならローカルな仕事を通じて地域と交感したいじゃないか。
……とまあ、瀬川さんのリプライを見て逡巡し始めてから約5分で上記のようなことを考え、ほぼ心は岩手行きに傾いていたが、一応この時に思いついていたデメリットを挙げておこう。
◎デメリット
1.飲食業従事に伴う感染リスク
2.普段の仕事に加え喫茶店営業をやることによる、過労の可能性
このうち1.は、実際には2021年の秋は、現在まで続くコロナ禍において、奇跡的に数ヶ月間感染が凪いだ時期だったので、問題にならなかった。2.は依然として心配だったが、これも意外となんとかなった(後述)。