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AI時代になっても変わらない 「礼儀正しさは最大の攻撃力」【佐々木常夫】前編

仕事人生を学び直すヒント

 

■仕事で成功する「正しい」「良質な」コミュニケーション術

 さらに、周囲との信頼関係を深めていくためにはどうすればいいでしょう。そのために必要なのが「正しい」「良質な」コミュニケーションの2つです。

「正しい」コミュニケーションとは仕事に関する情報を正確に伝達すること。仕事を進めるうえで、案件の重要度、スケジュール、品質の基準などの情報を曖昧にしておくのは、水掛け論のトラブルを招くだけです。

 日本語には「以心伝心」「あうんの呼吸」という言葉があり、その場の雰囲気を察して言動することを美徳にする風潮があります。しかし、ビジネスにおいて、多くを語らないのは、リスクを放置している無責任な態度と取られても仕方ありません。

 例えば、上司から事務的な仕事の指示を受けたとします。このとき、部下は、上司の指示に対して半ば疑問を持ちつつも「おそらくこんな感じだろう」とスタートさせました。その後1時間が経過し、上司は部下の進捗具合に対して「全然、進んでないじゃないか! ここまで細かくやれとは言っていないだろ!!」と叱責。部下の立場からすると「それなら最初にそう伝えろよ」となります。結局のところ、お互いに不信感を募らせ、信頼を損なう……。上司としては、できるだけ正確かつ詳細な指示を心掛け、一方の部下は仕事を始める前に疑問点を質問する。両者が最初に少しだけ「正しい」コミュニケーションにより、歩み寄っていれば、全く違う結果になっていたはずです。

「正しい」コミュニケーションとともに重要なのが「良質な」コミュニケーションです。これはプライベートな人間同士の交流を意味します。

 プライベートで悩みや不安を抱えていたら、ビジネスにも悪影響が及びます。そもそも仕事とプライベートは表裏一体、切り離すことはできないのです。誰もがさまざまな事情を持ちながら、家族や仲間に支えられ、寄り添いながら生きています。私たちは、ビジネスマンである前にひとりの人間です。だからこそ、そのことを考慮した、ひとりの人間として「良質な」コミュニケーションが必要になります。

 これは決して難しいことではありません。至ってシンプルです。要は自分がされてうれしいことを、相手にしてあげればいいのです。例えば、私は、飲み会の席などで相手の誕生日や生まれ故郷、趣味などを聞いたら、必ずそれを手帳に記録します。そして、部下や取引相手の誕生日が来ると必ず一声掛け、ささやかなプレゼントを贈るようにしています。それを習慣化するだけで、相手との関係性は飛躍的に向上します。

「正しい」「良質な」コミュニケーションを心掛けるだけで、信頼は急速に深まっていきます。しかし、ビジネスの現場には実にさまざまな人がいます。気が合わない、苦手だな、と思う人は誰もが必ずいるはずです。そんな人ともコミュニケーションしなければならないのか? その答えは、もちろんイエスです。少なくとも、その努力をしなければいけません。

 例えば、そりが合わない上司がいたとします。自分がそう感じるということは、上司はそれ以上にそりが合わないと思っていると考えるべきです。

 ここでできるだけ関わらないようにすれば、するほど、仕事の生産性が落ちていくことは想像に難くありません。上司との冷えた関係を改善する第一歩は、まず「私の短所や欠点をご指摘ください」と聞くことです。仕事に取り組む姿勢や進め方など、上司のほうで苦手と感じる点があるものです。それを明確にして、まずは改善する努力をしてみてください。次第に上司との距離は縮まるはずです。

 また、苦手な相手を知ることも、信頼を勝ち得るために重要です。仕事のスケジュールや、家族構成、出身校など、自分との共通点を探し、話題をどんどん作っていきます。苦手だと思う人にも信頼してもらうためには、まずは相手の価値観を大切に、それに合わせて行動するということです。

 ただし、ここで勘違いしてはいけないのは、上司や取引先の腰巾着になる必要はありません。なぜなら、ビジネスマンが目指すべき最終的なゴールは、お互いに信頼し合える関係を築き、より質の高い成果を上げることだからです。そのため、ゴールやビジョンを常に明確にしておくことも信頼を得るためにとても大切です。

【後編につづく】

 

■佐々木常夫(ささき・つねお)略歴

1969年、東大経済学部卒業後、東レ入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活。。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建やさまざまな事業改革など多忙を極めそうした仕事にも全力で取り組む。

2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より東レ経営研究所社長となる。

2010年(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。
多くの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成や管理職教育のプログラムの講師などを勤める。
社外業務としては内閣府の男女共同参画会議議員、総務省、厚労省、国交省などの官庁の審議会委員、大阪大学客員教授などの公職を歴任。

2006年に「ビッグツリー~私は仕事も家族も決してあきらめない~」を出版。その後「部下を定時に帰す仕事術」「そうか 君は課長になったのか」「働く君に贈る25の言葉」「実践・7つの習慣」「40歳になったら働き方を変えなさい」などがベストセラーになり、2011年ビジネス書最優秀著者賞を受賞。現在累計190万部。

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大崎量平

おおさき りょうへい

記者・編集者

学習院大学文学部哲学科卒業。大学卒業後、医療系出版社、編集プロダクション、フリーランスの編集記者、KKベストセラーズ「月刊CIRCUS」編集部、徳間書店「週刊アサヒ芸能」記者、家電業界誌、光文社「FLASH」記者を経て、2018年より講談社「週刊現代」記者として活動。芸能・スポーツからビジネス、社会評論に関する書籍の構成ライターも務める。

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