生涯一人か……そんな思いとコロナが引き金になり、60歳を目前に婚活アプリに時間とエネルギーを注ぐことを決心した【石神賢介】
人生の節目〜39、49、59歳は〝婚活発情期〟
マイナスのイメージが強かった婚活アプリの潮目が変わったのは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大だった。突然の疫病の蔓延で、一人で暮らす寂しさからシングルの結婚願望が高まった。イケメンとはほど遠い容姿、身長は166センチ、バツイチの著者が初期の婚活サイトで出会った女性たち。そして60歳を目前に婚活アプリに時間とエネルギーを注ぐことを決心した理由。約30年にわたり、あらゆる婚活にトライしてきた著者が現代の婚活事情を赤裸々に描いた最新刊『婚活中毒』から一部を抜粋してお送りする。
初めて筆者がネットの婚活にトライしたのは2000年代だった。40代の後半だ。当時はまだ婚活アプリとはいわず、婚活サイトといっていた。そのなかの大手インターネット会社が主催するサイトに登録した。
2020年代の婚活アプリは、登録者のほとんどがプロフィールに自分の写真をアップしている。写真のない登録者はなかなか申し込まれない。男女にかかわらず、容姿のレベルにかかわらず、顔のわからない相手と話すのは不安だ。
しかし、初期の婚活サイトは、プロフィールに顔写真をアップしない登録者が多数派だった。身長や体重などわずかな情報からイマジネーションを働かせて、アプローチするしかない。自分自身も顔写真はアップしていなかった。身バレを恐れた。
顔のわからない相手との対面はいろいろな意味で怖い。まったく好みでない相手の可能性は大きい。美人局にも遭うかもしれない。でも、なにもしなければ出会えない。リスクを取り、勇気を振り絞り、自分の運を信じて、女性にアプローチしていた。
◼️勇気を出してCMモデルにアプローチ
そんななかに、大手化粧品会社のCMに出演していたモデルがいた。写真はなかったが、好きな映画や音楽が同じだったので、話が合うと感じて申し込んだのだ。
ネットを通して何度もやり取りをして、おたがい信用できたタイミングで対面すると、細身でとても美しい女性が現れた。彼女は30代半ばで、婚歴が一度。子どもはいなかった。年配の女性向けの化粧品会社のモデルの仕事をしていると言った。
会話は盛り上がり、楽しい食事になった。帰り際にまた会いたいと言うと、厳しいリクエストをしてきた。
「私とつり合いがとれるように、一週間であと3キロ体重を落としてきて」
条件を提示された。〝私とつり合いがとれるように〟という言葉がリアルだ。
「えっ、3キロも!」
「そう、3キロ。大丈夫。食べなきゃ落ちるから。私はしょっちゅうやってるわよ」
一般社会の恋愛と同じように、〝婚活村〟でも容姿のいいほうが優位に立つ。
「3キロ落としたら、キスさせてくれますか?」
子どものようなお願いをした。
「きっちり3キロ落としてきたら、キスのもっと先もいいよ」
想定外の答えが返ってきた。十分すぎるご褒美だ。
「絶対に落とします!」
気をつけの姿勢で誓った。
3日断食して3キロ落とし、交際にこぎつけた。約束通り一緒にお泊りした。
彼女の身体には体脂肪がほとんどなく、まるで舞踏家とイチャイチャしているようだった。モデルという仕事も大変だと知った。