インボイス制度実施でやっぱり混乱と困惑の1ヶ月。〝来年の確定申告は地獄になる〟これだけの理由【篁五郎】
■STOPインボイスから財務省・国税庁・公取・中小企業庁へ送られた要望の中身
インボイスは下請けだけではなく、経営側にも大きな負担になる。現在は経過措置があるため、インボイス登録していない事業者との取り引きで消費税を負担しても僅か2割で済む。しかし経過措置は6年で終了になるので、その後も未登録事業者と取り引きをすると10%分を元請け側は支払いしないといけない。
税理士の元には「経過措置が終わった後、取引金額をどれくらい下げていいのか?」という相談が相次いでいるそうだ。全国青年税理士連盟の亀川税理士から「6年後に混乱する恐れがあるから指針を示して欲しい」と要望した。しかし、公正取引委員会は壊れたテープレコーダーのように同じような答えしか出てこない。指針を示せない。これでは現場でも回答ができないのは明白だ。
その後、STOPインボイスより財務省・国税庁・公正取引委員会・中小企業庁へ要望書が手渡された。その文書には、以下の内容が記してある。
「インボイス制度を考えるフリーランスの会では、適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度の開始 1ヶ月を機に、オンラインによる緊急意識調査を行った(調査期間:23 年10月20日~31日)。わずか 11日間の募集期間で免税事業者、課税事業者、会社員、経営者などから集まった声は約 3000 件におよび、自由記入欄とした〈制度開始で不安に感じていること〉へのコメントには約 2000 件の声が寄せられた。本調査では、インボイス制度開始によって会社員を含む回答者全体の約 7 割が「事業の見通しは悪い」「廃業・退職・異動も検討」と、マイナスの影響があると回答。インボイス発行事業者である/なしにかかわらず、同制度が仕事や暮らしに悪影響を与えている結果が明らかになった。我々は、今回寄せられた不安や実害の声を以下の 6 つの問題点として整理した(以降、枠内は本調査に届いた声を一部抜粋して記載)。
当会は 21 年 12月の活動開始より一貫して、以下の点について問題を訴え、見直しを含めた中止・廃止を度々、政府・行政に呼びかけてきた。危惧が現実のものとなった今、この6つの問題点を是正できない限り、インボイス制度の当面の運用停止・中止・廃止を改めて要請する。財務省・国税庁・公正取引委員会・中小企業庁の皆さまにおかれましては、本要請に対する見解を、2023 年 11月22日(水)までに下記のメールアドレスまで、ご回答いただけますよう、お願いいたします。
〈制度開始一ヶ月の実害を踏まえた適格請求書等保存方式(インボイス制度)の運用停止・中止・廃止を求める要請書〉
2023年11月13日
インボイス制度を考えるフリーランスの会
【1】不景気・物価高の中での“インボイス増税”であること
ゼロゼロ融資の返済が本格化し、倒産件数が増え、実質賃金が 18ヶ月連続マイナスとなる今、増税となるインボイス制度が開始されたことで、事業継続への危機感を募らせる声が多数届いた。また、回答者は 20~40 代の現役世代が約 8 割を占めることから、ライフプランや子育てへの影響を懸念する声も多い。
コロナ禍、戦争による物価高騰を受け、世界の 10カ国以上で消費税(付加価値税)の減税が行われる中、不況にあえぐ現状での“インボイス増税 ”は、世界の潮流に逆行するものと言わざるを得ない。消費税増税分を民間同士で押し付け合う不毛な仕組みから、抜本的に改めることを求める。
【2】免税事業者に対する一方的な値下げ、取引排除の横行
インボイス未登録の事業者に対し、交渉の余地のない一方的な報酬カットや、取引排除が相次いでいる。また、「免税事業者を使うな」といった“ お達し”を出す企業もあり、“ サイレント免税事業者切り”が横行。良好な取引関係が制度開始によって壊されている。加えて、免税事業者からの仕入れが最初の 6 年間は5~8 割控除できる経過措置によって経理事務がさらに複雑化することから、かえって免税事業者を排除する方向に作用している実態も明らかになっている。
公正取引委員会は、事務処理の負担を理由にした免税事業者との取引停止は独禁法違反で問うことは難しい、という見解を示しているが、これが問題にあたらないならば、もはや免税事業者排除が合法化しているといっても過言ではない。免税事業者への速やかなセーフティーネットの整備を求める。
【3】インボイス未登録事業者への差別・バッシング
インボイス未登録事業者や免税事業者に対し、差別やバッシングが起こっている。消費税が「預かり税」であるという誤解から、「脱税」といった誹謗中傷を受けた事業者、客から「インボイスが出せないなら値引きしろ」といったカスタマーハラスメントにあたるような対応をされた店もある。
税理士や税務署ですら制度への理解が追いついていないケースも見受けられる中、消費税は預かり税ではないこと、免税事業者であっても消費税を請求することに問題はないことなど、インボイス未登録事業者が差別されないような発信と周知を強く求める。
【4】複雑を極める制度により、生産性のない過重な事務負担で疲弊する現場
調査では、2 人に 1 人が「経理事務負担」を感じており、3 割超が「説明や交渉の負担」を訴えた。度重なる残業がライフワークバランスに支障をきたした結果、本調査に先んじて行った経理担当者向けアンケートでは、3 割超が「異動・退職・転職を考えている」と回答している。
「経過措置」「激変緩和措置」「特例」といった複雑怪奇な建付けとなっているインボイス制度が税の三原則のひとつ「簡素」に立ち返ることこそ、働き手にとって最大の負担軽減策となることは言うまでもない。簡素な制度設計への見直しを要請する。
【5】自由な商取引が阻害されている
提供する商品・サービス・スキルの前に、「インボイスの有無」で取引の線引きが行われている。公正取引委員会は「事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由」と説明するが、制度開始一ヶ月にして商取引の自由と尊厳が奪われている現状こそ、規制されるべきものと考える。ただちに法整備を要請する。
【6】税理士・税務署といった税務のプロの誤った指導と理解不足、そして相談窓口不足
財務省が、消費税は「預かり税」ではないという見解を国会で示し、消費税法上も消費税に「預かり金」や「益税」があるとは認めていないにもかかわらず、税務署や税理士から「消費税は預かり税である」とする誤ったアドバイスを受けるケースが見受けられた。インボイス制度への理解度・知識にもばらつきがあり、頼るべき国税庁のコールセンターには問い合わせが殺到し、つながらない状態が続いている。相談窓口不足、税の専門機関の理解不足の是正を求める。