「死人に口なし」でジャニーズ事務所を豊臣家や大日本帝国、安倍晋三にしてはいけない理由【宝泉薫】
なお、その勢力が立ち上げた「PENLIGHT」という組織がある。ジャニーズファンの集まりだと公称しているものの、ファンとしてのリアリティーは感じられない。今年初め、会計をめぐって疑惑が持たれ「公金チューチュー」などと揶揄もされた女性支援団体とのつながりも垣間見え、この組織の動向に警戒心を抱く人も少なくなかった。
ジャーナリストの石井孝明は「Colaboの背景、不気味なネットワーク−行政が乗っ取られていた?」という記事のなかで「ここまで野党議員の支援を受けるColaboと『人権屋さん界隈』の政治力に驚く」として、こう書いている。
「野党は選挙で勝てないから個別論点で行政のハッキング(乗っ取り)をしているようだ」
ジャニーズ騒動もまた、大局的には勝てないこうした勢力が局地戦で挽回し、利を得ようとしているようにも映る。
そのあたりを見抜けなかったのが、ジャニーズの悲劇だったわけだが、敵は豊臣家を追いつめた徳川家康のように狡猾だ。家康は秀吉亡きあと、内輪もめや寝返りを利用したり、膨大な金を浪費させたり、意のままになる者を送り込んだり、難癖をつけたりして、豊臣家を弱体化させていった。
NHKの大河ドラマ「どうする家康」では、その家康をジャニーズタレントの松本潤が演じた。なんとも皮肉な話だが、ジャニーズもこのまま滅亡してしまうのだろうか。
ただ、最大の争点というべきジャニー喜多川のセクハラについては今も証拠が出て来ていない。じつは今回の騒動によって、筆者も考えを少し変えた。彼の生前から盛んに取り沙汰されてきた噂は実態よりも真実味が薄いのでは、と思い始めたのだ。
その性癖については創業当初から噂され、報道もされてきたが、生前に最大の注目を浴びたのは、1988年、元フォーリーブスの北公次による暴露本「光GENJIへ」が出たときのことだった。
仕掛け人は、当時、田原俊彦の女性スキャンダルをめぐり、ジャニーズと対立していたAV監督の村西とおる。糾弾するための材料をカネをかけて集めており、そこにうまくハマったのが、カネに困っていた北だった。彼自身、アイドル時代に作詞をしたり、自伝本を書くなど文学志向だったが「光GENJIへ」自体は彼の告白をもとに出版プロデューサーの本橋信宏が執筆。本橋は村西の友人で、その仕事を手伝いながら、反体制運動などのルポを書いたりしていた。
とまあ、この構図から浮かんでくるのは、この本の信憑性についての疑問だ。ポルノグラフィーとしても恨み節としてもかなりよく出来ているが、逆によく出来すぎている感もある。考えてみれば、村西はもとより、本橋もポルノには通じていたし、北は北で、とにかく面白い話を提供しなくてはならない必要に迫られていた。そんななか、けっこう盛られた内容もあるのではと想像してしまう。