「松本人志vs文春」のゆくえ 国民にケンカを売りつけた岸田文雄「政治刷新本部」という茶番【適菜収】
【隔週連載】だから何度も言ったのに 第55回
安倍晋三暗殺事件から一年経った昨年7月以降、安倍と関係する重大事件が頻発。重要閣僚のドミノ倒しが始まった。一方芸能界でも、権力構造のトップに君臨していたジャニーズ事務所や吉本興業から性加害スキャンダルが次々露見。世の混乱は底なし沼の様相だ。このような絶望的な状況の中で、正気を維持するためにはどうすればいいのか? 『日本人は豚になる 三島由紀夫の予言』(KKベストセラーズ)で、それを考察した著者、適菜収氏の「だから何度も言ったのに」第55回。
■百田尚樹の世襲政治家批判
ダウンタウン松本人志の性加害問題の件。松本の活動休止を吉本興業が発表したが、いろいろよくわからない。吉本興業の「当該事実は一切なく」、松本の「事実無根」という主張通りなら、松本は完全に被害者である。その場合、「週刊文春」は捏造記事により、ひとりの人間を社会的に抹殺しようとしたことになる。これは世紀の大事件であり、雑誌廃刊どころか、文藝春秋社の存続にかかわる大問題になる。しかし、だったらなぜ松本は活動を休止するのか。意味不明。逆に松本や吉本興業が、告訴をちらつかせたりしながら、会社ぐるみで事実を闇に葬ろうとしたなら、吉本興業の存続が問われることになる。
*
今回の件に関連してネットに流れてきた松本の2019年のコメントが味わい深い。タレントの木下優樹菜がタピオカ店に恫喝メッセージを送り、芸能活動を自粛することを発表したことについて、「確かに彼女は一線を越えてしまった、あの文言は…」「ネット上では1カ月以上炎上していて、テレビでは扱わない。僕としては扱ったほうがいいんじゃないかなとずっと思ってて」「ご本人なのか事務所さんなのか。正直、くさいものにふたをした感が否めない」。
*
ネトウヨの百田尚樹らがつくった面白政党「日本保守党」の躍進が止まらない。百田は「夕刊フジ」のインタビューで、国民の信頼を失墜させた自民党の政治資金パーティー収入不記載事件に言及。百田は最初から飛ばす。
「日本の政治家のほとんどは、日本の歴史を知らない。日本の伝統、日本の文化、日本そのものに対する敬意も誇りもない。私はある意味、これほどのモラルと文化を持った国はないと思う。その素晴らしさを日本人が一番分かっていない」
『ウォーリーをさがせ』に匹敵する間違い探し本の名著『日本国紀』の作者である百田が、「日本の歴史」に言及するというところが、サービス精神旺盛。ちなみに『日本国紀』は嘘とデタラメばかりの「トンデモ本」。単行本では「初版から第9刷にかけて少なくとも50カ所以上の修正を重ねるお粗末さ」(「毎日新聞」2021年12月6日)。日本の歴史を知らないのは百田である。
「街頭演説では、『議員の家業化をやめる』という訴えに反応がすごかった」と話題を振られると、百田いわく「私は以前から『世襲政治が日本をダメにしている』と言い続けてきた。政治家は本来、最も志高く優秀な人物が選ばれるべきだが、世襲政治家は下駄を3段も4段も5段も重ねている。厳しい競争から除外された人が世襲で政治家になって、閣僚や首相になる。それでは、日本を牽引する優秀な人間は出ませんわ」「閣僚や首相になると世襲率はさらに高くなる。これが日本の政治を悪くしている」。
気が遠くなる。百田は「安倍(晋三)さんが亡くなってから、自民党の発言、動きを見ているともうダメだと。ほかに支持する政党がない。自分が立つしかない。立てるしかないと思った」のではなかったのか。安倍が代表的な世襲政治家であることを知らないとは思えないし。百田の頭の中の仕組みが素朴にわからない。
*
百田の漫談は止まらない。「もう一つ、政治資金管理団体の世襲も見直す。日本の相続税は世界でも相当厳しいのに、資金管理団体は無税で相続できる。国税が手を入れないのは不思議だ」。え? これは3・4億円を非課税で「相続」した昭恵を批判? 笑いをとろうとしているのか?
- 1
- 2
KEYWORDS:
✳︎KKベストセラーズ 適菜収の好評最新刊✳︎
『日本をダメにした 新B層の研究』
✳︎
全国書店、Amazonで絶賛発売中
※以下のカバー画像をクリックするとAmazonページにジャンプします
- 目次
はじめに−−「B層」とは何か?
✳︎
第一章 内田樹と『日本辺境論』
辺境と偏狭
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
B層グルメと某評論家
B層という言葉が出てきた経緯
なぜ日本はこんなことになってしまったのか?
ルース・ベネディクトの『菊と刀』
安倍晋三の行動原理
学問のブレイクスルー
マイケル・ポランニーと暗黙知
百人一首を暗記する意味
「型」を知るということの贅沢
✳︎
第二章 自立を拒絶する人たち
白井聡の『永続敗戦論』
終戦記念日という欺瞞
冗談は櫻井よしこさん
「サヨク」と「保守」の自己欺瞞
「主権の欲求不満」の解消
✳︎
第三章 「正義」を笠に着る人たち
ウクライナ首都の名称変更は「正義」なのか?
「人間は見たいものしか見ない」
社会的リンチというB層の「正義」
人種問題における「正義」の暴走
「ルッキズム」批判は「正義」なのか?
言葉狩りは「正義」なのか?
若年層に選挙権を与えるのは「正義」なのか?
山本太郎と「正義感」について
✳︎
第四章 陰謀論に走る人たち
「無知の知」と「無恥の恥」
不道徳としか言えない果物屋
「維新に殺される」
新型コロナは「バカ発見器」でもあった
ひっくり返って駄々をこねる老人たち
Yahoo!ニュースのコメント欄
知識はあるけど教養がないバカ
デマは言論の自由にあらず
社会の変化は元には戻らない
99%の人が知らない話
✳︎
第五章 無責任な人たち
安倍の次は維新に騙されるB層
メディアの劣化が止まらない
大阪都構想のデマと事実隠蔽
総選挙で湧いてきたB層
✳︎
第六章 恥知らずな人たち
飼い犬の遠吠え
安倍晋三の本質を映し出す一枚
ツッコミ待ち政治家だらけの国
日本の崩壊に気づいていないB層
日本最大の権力者は「改革バカ」
「ジューシー」発言は外部の拒絶
悪意なく嘘を重ねる人々
カルト化した自民党広報本部
百田尚樹の「歴史改ざんファンタジー」
日本人は悪に屈したネトウヨ用語を使い騒ぎ出した元首相
✳︎
おわりに−−人間は過去を忘れ野蛮は繰り返される